磁場

磁場

磁場と電場はそっくり

本項では磁場について解説しますが、この磁場というものは電場における法則がほとんどそっくり成り立ちます。

磁極と磁気量

磁石にはN極とS極があり、それらを磁極といいます。磁極は電場でいうところの電荷に相当します。N極、S極は電場でいうところの正電荷、負電荷に相当します。N極だけ、S極だけなどと単独では存在しないと考えられています。電荷については、正電荷だけ、負電荷だけと単独で存在できると考えられています。(いまのことろ電場と磁場の違いはこのことだけと考えられています)

磁極が帯びている磁気の量を磁気量といいます。磁極の強さ、ともいいます。磁荷ともいいますが、磁荷という言葉は高校物理では使わないようです。量記号には mmagnetic charge から。閉じる を用います。磁気量は電場でいうところの電気量のことです。電気量のことを電荷といってしまうことはままありますが、磁気量のことを磁極ということはありません。言葉の使い分けは難しいです。

磁気量の単位は [Wb] ウェーバ ですウェーバー と表記することもあります。19世紀のドイツの物理学者 ヴィルヘルム・ヴェーバー にちなんでます。ドイツ語では「ウェ」を「ヴェ」と発音します。
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電場 磁場
電荷 磁極
正電荷、負電荷
(単独で存在可)
N極、S極
(単独で存在不可)
電気量
(電荷量、電荷)
[C]
磁気量
(磁極の強さ)
[Wb]

磁気力

磁極と磁極の間にはたらく力を磁気力(=磁力=電磁力)といいます。その大きさは、それぞれの磁気量 m1 [Wb] 、m2 [Wb] の積に比例し、磁極間の距離 r [m] の2乗に反比例します。静電気力のクーロンの法則と同じくクーロンが発見しました。

磁気力のクーロンの法則

 F = km\(\large{\frac{m_1m_2}{r^2}}\)

クーロンの法則は、静電気力のクーロンの法則と磁気力のクーロンの法則と2つがあるということです。普通、クーロンの法則といったら静電気力のクーロンの法則の方を指します。

N極の磁気量の符号を正、S極の磁気量の符号を負、とすると磁気力 F の符号が正のときは斥力、負のときは引力、となります。(NとNは反発、SとSも反発、NとSは引きつけ)

km は比例定数で、真空中でのその値は km = 6.33×104 N⋅m2/Wb2 です。この値は、真空の透磁率 μ0 = 4π×10-7 N/A2 との間に、

    km = \(\large{\frac{1}{4\pi\mu_0}}\)

という関係があります。つまり、

    km = \(\large{\frac{1}{4\pi\mu_0}}\) = \(\large{\frac{1}{4\pi\times(4\pi\times10^{-7})}}\) = \(\large{\frac{10^7}{(4\pi)^2}}\) ≒ 6.33×104

となっています。さらにこれは、

    F = km\(\large{\frac{m_1m_2}{r^2}}\)

という磁気力のクーロンの法則の式が真空中では、

    F = \(\large{\frac{1}{4\pi\mu_0}}\)⋅\(\large{\frac{m_1m_2}{r^2}}\)

とも書き表せるということです。

電場 磁場
静電気力 磁気力
クーロンの法則
F = k\(\large{\frac{q_1q_2}{r^2}}\)
F = \(\large{\frac{1}{4\pi\epsilon_0}}\)⋅\(\large{\frac{q_1q_2}{r^2}}\)
クーロンの法則
F = km\(\large{\frac{m_1m_2}{r^2}}\)
F = \(\large{\frac{1}{4\pi\mu_0}}\)⋅\(\large{\frac{m_1m_2}{r^2}}\)
誘電率
透磁率

磁気量 Wb の定義

磁気量 [Wb] ウェーバ については、真空中で 1m 離れた磁気量の等しい2つの磁極の間にはたらく磁気力が 6.33×104 N であるような磁気量を 1Wb とする、と定義されています。ややこしいですが、どういうことかといいますと、

    F = km\(\large{\frac{m_1m_2}{r^2}}\)

という式において、

 6.33×104 = km\(\large{\frac{mm}{r^2}}\)

であるということであり、km = 6.33×104 であり、r = 1 でありますので、

 6.33×104 = 6.33×104⋅\(\large{\frac{mm}{1^2}}\)

となるときの磁気量 m が 1Wb 、ということです。

これはつまりおそらく、電流の単位 [A] アンペア が先に決められて、そのあと、真空の透磁率 μ0 というものが定義されて、そのあと、磁気量 [Wb] ウェーバ が定義されたということだと思います。

そして、この単位は磁束の単位でもあります。

磁場

静電気力がおよぶ空間を電場といいますが、それと同様、磁気力がおよぶ空間を磁場(磁界)といいます。磁場の大きさと向きは、1Wb の N極電場における正の単位電荷に相当します。閉じるを置いたときに受ける力とその向き、と定義されています。m [Wb] の磁極を置いたときは m倍の力を受けます。N極の磁極が右に行こうとするときは磁場の向きは右です。

磁場は \(\vec{H}\) 19世紀のアメリカの物理学者ジョセフ・ヘンリー Joseph Henry にちなんでいるらしいです(不確か)。
斜体の H は磁場の量記号で、エイチと読み、
立体の H は自己インダクタンスの単位で、ヘンリーと読みます。
どちらも語源はジョセフ・ヘンリーです(不確か)。紛らわしいです。
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で表します。

磁場 \(\vec{H}\)

 \(\vec{F}\) = m\(\vec{H}\)

方向を気にしないときの式は F = mH です。[N] = [Wb]×H ですので磁場 H の単位は [N/Wb] ニュートン毎ウェーバ です。この単位は『電流がつくる磁場』項で説明する [A/m] アンペア毎メートル と同等です。

電場 磁場
[N/C] [N/Wb]
\(\vec{F}\) = q\(\vec{E}\) \(\vec{F}\) = m\(\vec{H}\)

F = mH に似ている式に F = IBlsinθ というものもあります。)

磁力線

電場における電気力線に相当するのが磁力線です。磁力線の性質は電気力線の性質とまったく同じです。

電気力線の性質』で示したことを書き写してみます。

  1. 電気力線正電荷から出て負電荷に入る。
  2. 電気力線は途切れたり急に始まったりしない。
  3. 電気力線は交わったり枝分かれしたりしない。
  4. 電場の強さが E [N/C] の場所に 1m2 当たり E 本の密度で電気力線を描くことにすると、電場の強さを電気力線の密度で表現できる。

磁力線の性質として書き直しますと以下のようになります。

  1. 磁力線はN極から出てS極に入る。
  2. 磁力線は途切れたり急に始まったりしない。
  3. 磁力線は交わったり枝分かれしたりしない。
  4. 磁場の強さが H [N/Wb] の場所に 1m2 当たり H 本の密度で磁力線を描くことにすると、磁場の強さを磁力線の密度で表現できる。

磁力線は目に見えないものですが、磁石の周りに鉄粉をまくと、磁力線を表すかのような模様ができます。磁場があることが確認できます。

方位磁針を置くと、針の向きは磁力線に平行になります。方位磁針のN極は磁石のS極の方を向きます。磁力線の向きは方位磁針のN極が指す向きです。磁力線はS極をめざしていると覚えてください。


地磁気

地球も一つの大きな磁石とみなすことができます。地球の磁力を地磁気といいます。

地球上で方位磁針を使うとN極の針は北を指します。方位磁針は元々は地球上で東西南北を調べるための道具です。方位磁針のN極は磁石のS極の方を向くのですから、地球を磁石とみなしたとき、北極にS極があることになります。Sとは当然英語のSouth(南)の頭文字です。北極に南を意味するS極があることに注意しなければなりません。逆に南極には北(North)を意味するN極があります。

紛らわしい話ですが、これは方位磁針を中心に考えてNとSを割り振ったので仕方ありません。

方位磁針のN(North北)が指す方向が北であり、その先にはS極(北極)があり、 方位磁針のS(South南)が指す方向が南であり、その先にはN極(南極)があります。

磁石

世の中の全ての物質は原子という粒からできていて、その原子の中には原子核があり、その周りを電子が回っています。そして回ると同時に電子は自転(スピン)しています。これらの動きによって磁力が発生します。磁力は電子(電荷)が動くと発生するのです。

磁石には磁力がありますが、他の物質に磁力が無いのは、磁石は原子の向きが揃っていて磁力を失わないのに対し、他の物質は原子の向きが均等にバラけていて、お互いの磁力を打ち消し合っているからです。

また磁石は切っても切っても磁石であるのは、原子の一つひとつが磁力を発生させてるからです。どこを切ってもN極、S極が現れます。原子を切断することはできません。

そして、片方がN極ならばもう片方は必ずS極です。N極だけの磁石、S極だけの磁石というものはありません。


磁化

鉄でできた物体2つを近くに置いても引き寄せ合うことはありません。

しかし、鉄の近くに磁石を置くと引き寄せられます。

磁石が磁気を持つのは、磁石内の各電荷(電子)のスピンの方向が揃っているからです。磁石以外の物質はスピンの向きが揃っていないために磁気を持ちません。

しかし、磁場の中に置かれた鉄はスピンの向きが揃います。そして全体としてN極とS極の偏りを持ち、鉄と磁石との間に磁気力が発生し、鉄は磁石に引き寄せられます。

(『磁化の概念』もご参照ください)

もし磁場の向きが変われば、スピンの向きも変わり、そして結局、鉄は磁石に引き寄せられます。

鉄はN極にもS極にも引き寄せられます。N極には引き寄せられるけれどもS極には反発する、ということはありません。これが鉄と磁石の違いの1つです。磁石の場合、そのS極はもう一つの磁石のN極には引き寄せられますがS極には反発します。

このように物質が磁気を帯びることを磁化といいます。電場でいうところの誘電分極(≠静電誘導)です。

物質は磁化する際の特徴から、強磁性体、常磁性体、反磁性体の3種に分けられます。

磁化しやすい物質を強磁性体といいます。鉄やコバルトやニッケルなどです。永久磁石(日常生活において『磁石』と呼ぶもの)も強磁性体です。永久磁石とは、磁場の中に置かなくても磁気を帯び続けているものです。

常磁性体は強磁性体ほど強くは磁化されないものです。強力な磁場をかけないと磁化されているのかどうかが分かりません。

反磁性体は磁化される方向が磁場の向きと逆になるものです。磁石を近づけると反発するということです。これも強力な磁場をかけないと磁化されているかどうか分かりません。超伝導体という物質は例外的に反磁性がとても強く、磁石に強く反発するので簡単に空中浮揚します。新しい超伝導物質が発見されると、小さな物体が空中浮揚している映像がニュースで流れますが、それはその物質が超伝導の性質を持っていることをアピールしているのです。
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磁性体という言葉がありますが、これは普通、強磁性体のことを指します。しかし、強磁性体、常磁性体、反磁性体の3種全部(つまり全物質)をひっくるめて磁性体ということもあります。

(『透磁率』もご参照ください)