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水平面と角度 θ をなすなめらかな斜面上に、ばね定数 k のばねの上端を固定し、その下端に質量 m の物体を長さ l の糸でつないだ。ばねが自然の長さのときのばねの下端の位置を点Aとする。はじめ、物体を手で支えて、点Aに静止させておいた。ただし、物体の位置は、糸のついた面の位置で示すこととする。
物体から手を静かに離すと、図1のように物体は点Aから斜面に沿って下方にすべり出し、点Bで糸がぴんと張った。物体はさらに下方にすべり、やがて物体の速さは点Cで最大になり、その後、物体は最下点Dに到達した。
ばねと糸の質量および糸の伸びは無視できるものとし、重力加速度の大きさを g とする。

図 1

(問1)物体が、最初の位置Aから糸が張った点Bに達するまでにかかった時間はいくらか。

(問2)点Aから物体の速さが最大となる点Cまでの距離はいくらか。

(問3)物体は点Cを通過した後、最下点Dで速さが 0 となった。物体が最初の位置Aから点Dまで降下する間、重力による位置エネルギーとばねの弾性力による位置エネルギーの和を、点Aから物体までの距離の関数として表したグラフとして最も適当なものを、次の①~④のうちから一つ選べ。

    

#センター13本試

(問1)
はじめ、糸はたるんでいるので張力は 0 であり、物体にかかる力は mg だけです。

運動方向成分は、mgsinθ です。

斜面方向(運動方向)の加速度を a として運動方程式を立てますと、

  ma = mgsinθ

∴ a = gsinθ

この加速度は暗算で導き出してもかまいません。

物体はこの加速度で等加速度直線運動をするから、求める時間を t と置いて変位の式を立てると、

    l = 0⋅t + \(\large{\frac{1}{2}}\)⋅gsinθt2

 ∴  gsinθt2 = 2l

 ∴  t = \(\sqrt{\large{\frac{2l}{g\sinθ}}}\)

 

 

(問2)
ばねにつながれた物体は摩擦が無ければ単振動をします 下の問3で説明しますが、本問では一部区間で単振動をします。 。『ばね振り子の力学的エネルギー』項では、ばねにつながれたおもりを引っ張ること(弾性エネルギー)によって動かし始めましたが、本問では、初速を与えること(運動エネルギー)によって動かし始めています。どちらの場合も摩擦が無ければエネルギーは保存します。

そして、単振動においては最も速さが速いのは振動の中心です。つまり、この物体は点Cを中心に単振動をします。そして単振動の中心においては加速度が 0 です。加速度が 0 ということは力の合力が 0 ということです。点Cにおいては、ばねの弾性力と重力の斜面方向成分がつり合っているのです。

求める距離を lC としますと、点Cでの弾性力k(lC - l) です。

ですので、

    mgsinθ = k(lC - l)

 ∴  (lC - l) = \(\large{\frac{mg}{k}}\)sinθ

 ∴  lC = l +\(\large{\frac{mg}{k}}\)sinθ

 

(別解:点Cでの速さを式で表してそれが最大となる条件を求める)
点Cでの物体の速さを vC として、点Cを基準とするエネルギーの式を立てます。

(A点での力学的エネルギー)=(A点での運動エネルギー)+(A点での重力による位置エネルギー)+(A点での弾性エネルギー)

      = ( 0 ) + ( mglCsinθ ) + ( 0 )

      = mglCsinθ  ……➊

(C点での力学的エネルギー)=(C点での運動エネルギー)+(C点での重力による位置エネルギー)+(C点での弾性エネルギー)

      = ( \(\large{\frac{1}{2}}\)mvC2 ) + ( 0 ) + ( \(\large{\frac{1}{2}}\)k(lC - l)2 )

      = \(\large{\frac{1}{2}}\)mvC2 + \(\large{\frac{1}{2}}\)k(lC - l)2  ……➋

力学的エネルギー保存の法則により ➊ = ➋ であるから、

  \(\large{\frac{1}{2}}\)mvC2 + \(\large{\frac{1}{2}}\)k(lC - l)2 =mglCsinθ

vClC の2次関数とみなして平方完成の形に持っていくと、

  vC2 + \(\large{\frac{k}{m}}\)(lC - l)2 = 2glCsinθ

∴ vC2 = - \(\large{\frac{k}{m}}\)(lC - l)2 + 2glCsinθ

    = - \(\large{\frac{k}{m}}\)(lC2 - 2llC + l2) + 2glCsinθ

    = - \(\large{\frac{k}{m}}\)(lC2 - 2llC - 2\(\large{\frac{mg}{k}}\)lCsinθ + l2)

    = - \(\large{\frac{k}{m}}\)\(\biggl\{\)lC2 - 2\(\Big(\)l + \(\large{\frac{mg}{k}}\)sinθ\(\Big)\)lC + l2\(\biggr\}\)

    = - \(\large{\frac{k}{m}}\)\(\biggl\{\)lC2 - 2\(\Big(\)l + \(\large{\frac{mg}{k}}\)sinθ\(\Big)\)lC + \(\Big(\)l + \(\large{\frac{mg}{k}}\)sinθ\(\Big)\)2 - \(\Big(\)l + \(\large{\frac{mg}{k}}\)sinθ\(\Big)\)2 + l2\(\biggr\}\)

    = - \(\large{\frac{k}{m}}\)\(\biggl\{\)lC2 - 2\(\Big(\)l + \(\large{\frac{mg}{k}}\)sinθ\(\Big)\)lC + \(\Big(\)l + \(\large{\frac{mg}{k}}\)sinθ\(\Big)\)2 - \(\Big(\)l2 + 2\(\large{\frac{lmg}{k}}\)sinθ + (\(\large{\frac{mg}{k}}\)sinθ)2\(\Big)\) + l2\(\biggr\}\)

    = - \(\large{\frac{k}{m}}\)\(\biggl\{\)lC2 - 2\(\Big(\)l + \(\large{\frac{mg}{k}}\)sinθ\(\Big)\)lC + \(\Big(\)l + \(\large{\frac{mg}{k}}\)sinθ\(\Big)\)2 - 2\(\large{\frac{lmg}{k}}\)sinθ - (\(\large{\frac{mg}{k}}\)sinθ)2\(\biggr\}\)

    = - \(\large{\frac{k}{m}}\)\(\biggl\{\)lC2 - 2\(\Big(\)l + \(\large{\frac{mg}{k}}\)sinθ\(\Big)\)lC + \(\Big(\)l + \(\large{\frac{mg}{k}}\)sinθ\(\Big)\)2\(\biggr\}\) + 2lgsinθ + \(\large{\frac{mg^2}{k}}\)sin2θ

    = - \(\large{\frac{k}{m}}\)\(\biggl\{\)lC - \(\Big(\)l + \(\large{\frac{mg}{k}}\)sinθ\(\Big)\)\(\biggr\}\)2 + 2lgsinθ + \(\large{\frac{mg^2}{k}}\)sin2θ

よって vC が最大になるのは

    lC = l +\(\large{\frac{mg}{k}}\)sinθ

のとき。

 

 

(問3)
物体が点Aから点Dまで移動する間、力学的エネルギーはずっと保存され続けます。摩擦が無いからです。

本問における力学的エネルギーというのは、重力による位置エネルギーばねの弾性力による位置エネルギー運動エネルギーのことです。この3つのエネルギーの総和がずっと保存されているのです。

点Aと点Dでは物体の速さは 0 です。つまり、運動エネルギーが 0 です。ということは、点Aと点Dでは、重力による位置エネルギーばねの弾性力による位置エネルギーの和が最大であり等しいということになります。このことを表しているグラフは①か③です。

さらに、物体の速さが最大となるのは点Cです。運動エネルギーが最大ということです。ということは、点Cでは、重力による位置エネルギーばねの弾性力による位置エネルギーの和が最小ということになります。このことを表しているグラフは①か②です。

というわけで答えはです。

 

点Aから点Bまでの曲線は直線で、点Bから点Dまでの曲線は放物線です。物体は点Aと点Dを往復します。点Bから点Dの間は単振動と同じ動きをします。

もし糸が無く、物体が直接ばねに取り付けられていれば、曲線は完全な放物線になります。