2物体の反発係数

2物体の反発係数

2物体の反発係数

反発係数』項においては、物体と壁(床)との反発係数について考えましたが、本項では、直線上を運動する2つの物体が衝突する場合の反発係数について考えます。衝突するということは、2つの物体は向かい合う方向に進む、あるいは、同じ方向に進むにしても、先行する物体より後追いする物体の方がスピードが速い、ということです。離れ離れ方向に進むとか、同じ方向に同じスピードで進むとか、同じ方向で、先行する物体の方がスピードが速いというようなことは無い、ということです。
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ある物体とある物体が相対速度 10m/s で衝突し100m/s と 90m/s の組み合わせかもしれませんし、57m/s と 47m/s の組み合わせかもしれませんし、とにかく2つの物体の速さの差が 10m/s ということです。
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、6m/s の相対速度向きは始めの相対速度と逆向きとします。
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になったとき、

今度は 5m/s の相対速度で衝突すると、相対速度は 3m/s になりますこれも始めの向きと逆向きです。
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20m/s の相対速度で衝突すれば、12m/s です。

この2つの物体の組合せのときは相対速度の変化が 10 : 6 の比率になるということです。この比率を反発係数(はねかえり係数)といいます。それぞれの物体の組合せに特有の数値です。『反発係数』項と同様、0 以上 1 以下の値をとります。

反発係数を e 、衝突前のそれぞれの物体の速度を v1v2 、衝突後のそれぞれの物体の速度を v1' 、v2' とすると次のように表せます(v1v2v1' 、v2' は正の値だけでなく負の値もとるものとします)。

2物体の反発係数

 e = - \(\large{\frac{v_1{'}-v_2{'}}{v_1-v_2}}\)

この式は e = - \(\large{\frac{v_2{'}-v_1{'}}{v_2-v_1}}\) と変形することができますし e = \(\large{\frac{v_1{'}-v_2{'}}{v_2-v_1}}\) とも変形できます。

上で示した2物体の例では反発係数は e = - \(\large{\frac{v_1{'}-v_2{'}}{v_1-v_2}}\) = - \(\large{\frac{(-6)}{10}}\) = 0.6 です。

反発係数』項における物体と壁との反発係数の式

    e = - \(\large{\frac{v'}{v}}\)

というのは、v2v2' が 0 の場合の式、といえます。壁のスピードが 0 ということです。

ここまで説明してきた衝突は、外力がはたらいてない場合の話です。運動量保存の法則が成り立っているということです。

e = 1

反発係数』項と同様、e = 1 となる衝突を弾性衝突(完全弾性衝突)といいます。最も良くはねかえる衝突です。

このときの衝突後の速度 v1' 、v2' を求めてみます。

2つの物体を、質量 m1 の物体A 、質量 m2 の物体B とし、衝突前における物体Bから見た物体Aの相対速度(v1 - v2)の方向は物体Bの方を向いている(要するに必ず衝突する)ものとします。

まず e = 1 だから、

    e = 1 = - \(\large{\frac{v_1{'}-v_2{'}}{v_1-v_2}}\)

 ∴  1 = \(\large{\frac{v_1{'}-v_2{'}}{v_2-v_1}}\)

 ∴  v1' - v2' = v2 - v1  ……①

運動量保存の法則が成り立っているから、

    m1v1 + m2v2 = m1v1' + m2v2'  ……②

①式を②式に代入して v2' を消去して v1' を求めます。

    m1v1 + m2v2 = m1v1' + m2(v1' - v2 + v1)

 ∴  m1v1 + m2v2 = m1v1' + m2v1' - m2v2 + m2v1

 ∴  m1v1 + m2v2 + m2v2 - m2v1 = m1v1' + m2v1'

 ∴  (m1 - m2) v1 + 2m2v2 = (m1 + m2) v1'

 ∴  (m1 + m2) v1' = (m1 - m2) v1 + 2m2v2

 ∴  v1' = \(\large{\frac{(m_1-m_2)v_1+2m_2 v_2}{m_1+m_2}}\)  ……③

①式を②式に代入して v1' を消去して v2' を求めます。

    m1v1 + m2v2 = m1(v2' + v2 - v1) + m2v2'

 ∴  m1v1 + m2v2 = m1v2' + m1v2 - m1v1 + m2v2'

 ∴  m1v1 + m2v2 - m1v2 + m1v1 = m1v2' + m2v2'

 ∴  (m2 - m1) v2 + 2m1v1 = (m1 + m2) v2'

 ∴  (m1 + m2) v2' = (m2 - m1) v2 + 2m1v1

 ∴  v2' = \(\large{\frac{(m_2-m_1)v_2+2m_1 v_1}{m_1+m_2}}\)  ……④

この③式、④式を解釈してみます。

m1m2

e = 1 で物体Aの質量が物体Bの質量より非常に大きい(m1m2)とき、

 ③ → v1' = \(\large{\frac{(m_1-m_2)v_1+2m_2 v_2}{m_1+m_2}}\) ≒ \(\large{\frac{(m_1-0)v_1+2⋅0⋅v_2}{m_1+0}}\) = \(\large{\frac{m_1 v_1}{m_1}}\) = v1

 ④ → v2' = \(\large{\frac{(m_2-m_1)v_2+2m_1 v_1}{m_1+m_2}}\) ≒ \(\large{\frac{(0-m_1)v_2+2m_1 v_1}{m_1+0}}\) = \(\large{\frac{-m_1 v_2+2m_1 v_1}{m_1}}\) = - v2 + 2v1

v1' ≒ v1 の意味は、衝突した後、物体Aの速度はあまり変わらないということです。

v2' ≒ - v2 + 2v1 の意味は、衝突した後、物体Bの速度がこれになるという意味ですが、ちょっと想像するのが難しいです。

よく考えてみますと、衝突前の物体Bの速度は小さい方が(できれば負の方向で絶対値が大きい方が、つまり猛烈なスピードで物体Aに向かっていく方が)、衝突後の物体Bの速度は大きくなるということです。それに加えて、物体Aの衝突前の速度の約2倍分だけ増加します。

この m1m2 の場合の理論は、惑星探査機を加速させるためのスイングバイという技術に応用されています。

m1 = m2

e = 1 で物体Aの質量と物体Bの質量が等しい(m1 = m2)とき、

 ③ → v1' = \(\large{\frac{(m_1-m_2)v_1+2m_2 v_2}{m_1+m_2}}\) = \(\large{\frac{(m_1-m_1)v_1+2m_1 v_2}{m_1+m_1}}\) = \(\large{\frac{0⋅v_1+2m_1 v_2}{2m_1}}\) = v2

 ④ → v2' = \(\large{\frac{(m_2-m_1)v_2+2m_1 v_1}{m_1+m_2}}\) = \(\large{\frac{(m_1-m_1)v_2+2m_1 v_1}{m_1+m_1}}\) = \(\large{\frac{0⋅v_2+2m_1 v_1}{2m_1}}\) = v1

これは、物体Aの速度が物体Bの速度になって、物体Bの速度が物体Aの速度になるということです。つまり e = 1 で質量が等しいときは、衝突によって速度が交換されるということです。

この現象はカチカチボール(ニュートンのゆりかご)という装置でよく実演されます。

0 ≦ e < 1

反発係数』項と同様、0 ≦ e < 1 となる衝突を非弾性衝突といいます。現実世界ではこの衝突が一般的です。

e = 0

反発係数』項と同様、非弾性衝突のうち e = 0 となる衝突を完全非弾性衝突といいます。この衝突は物体が合体するということです。(『物体の分裂』項の『物体の結合』参照)

このときの衝突後の速度を求めてみます。

e = 0 だから、

    e = 0 = - \(\large{\frac{v_1{'}-v_2{'}}{v_1-v_2}}\)

 ∴  v1' = v2'  ……⑤

運動量保存の法則が成り立っているから、

    m1v1 + m2v2 = m1v1' + m2v2'  ……②

⑤式を②式に代入して v2' を消去して v1' を求めます。

    m1v1 + m2v2 = m1v1' + m2v1'

 ∴  m1v1 + m2v2 = (m1 + m2)v1'

 ∴  v1' = \(\large{\frac{m_1 v_1+m_2 v_2}{m_1+m_2}}\)  ……⑥

e = 0 のとき物体Aと物体Bは衝突すると合体し、上記の速度になるということです。この式は、重心の位置の式や数学の内分点の公式に似ています。

この⑥式を解釈してみます。

m1m2

e = 0 で物体Aの質量が物体Bの質量より非常に大きい(m1m2)とき、

 ⑥ → v1' = \(\large{\frac{m_1 v_1+m_2 v_2}{m_1+m_2}}\) ≒ \(\large{\frac{m_1 v_1+0⋅ v_2}{m_1+0}}\) = v1

合体しても、ほぼ物体Aの速度のままということです。

m1 = m2

e = 0 で物体Aの質量と物体Bの質量が等しい(m1 = m2)とき、

 ⑥ → v1' = \(\large{\frac{m_1 v_1+m_2 v_2}{m_1+m_2}}\) = \(\large{\frac{m_1 v_1+m_1 v_2}{m_1+m_1}}\) = \(\large{\frac{v_1+ v_2}{2}}\)

合体後の速度は、物体Aと物体Bの速度の平均となるということです。さらに、v1 = - v2 (向い合って同速で衝突して合体)のとき、v1' = 0、つまり静止し、v2 = 0 のときは合体後の速度は v1 の半分となることが分かります。