図3のように、容器とシリンダーが接続されている。接続部分にあるコックを閉じることによって、容器とシリンダーを仕切ることができる。シリンダーにはピストンがついており、ピストンはシリンダーの奥からストッパーの位置までシリンダー内をなめらかに動くことができる。容器、シリンダー、ピストン、コックは熱を通さず、容器とシリンダーの接続部分の体積は無視できるものとする。
はじめ、容器の内部に気体(理想気体)が封入されてコックは閉じられており、ピストンはシリンダーの奥まで押し込まれている。このとき、気体の温度は T0 であった。
(問7)まずコックを開き、ピストンを右にゆっくり動かしながら、ストッパーの位置まで移動させた。このとき、気体の温度は T1 であった。この過程で気体がした仕事を W1 とする。
次に、ピストンをゆっくり左に動かし、シリンダーの奥まで押し込んだ。このとき、気体の温度は T0 であった。この過程で気体がした仕事を W2 とする。
温度 T0 、T1 の大小関係と、W1 、W2 の関係を表す式の組合せとして正しいものを、次の①~⑨のうちから一つ選べ。
T0 、T1 の大小関係 | W1 、W2 の関係 | |
---|---|---|
① | T0 < T1 | W1 + W2 > 0 |
② | T0 < T1 | W1 + W2 = 0 |
③ | T0 < T1 | W1 + W2 < 0 |
④ | T0 = T1 | W1 + W2 > 0 |
⑤ | T0 = T1 | W1 + W2 = 0 |
⑥ | T0 = T1 | W1 + W2 < 0 |
⑦ | T0 > T1 | W1 + W2 > 0 |
⑧ | T0 > T1 | W1 + W2 = 0 |
⑨ | T0 > T1 | W1 + W2 < 0 |
(問8)ピストンが押し込まれているはじめの状態から、コックを閉じたままピストンをストッパーの位置まで動かして固定する。
その状態で、コックを開き、気体をシリンダー内に充満させた。このとき、気体の温度は T3 であった。この過程では、気体は真空のシリンダー内に広がるだけであり、ピストンに対して仕事をしない。
その後、シリンダーの奥までピストンをゆっくり動かし、気体を容器に戻した。このとき、気体の温度は T4 であった。
温度 T0 、T3 、T4 の大小関係を表す式として正しいものを、次の①~⑥のうちから一つ選べ。
① T0 = T3 < T4 ② T3 < T4 < T0 ③ T3 < T0 = T4 ④ T0 = T4 < T3 ⑤ T4 < T0 < T3 ⑥ T4 < T0 = T3
#センター13本試
(問7)
本問では全てが断熱されていて、ヒーター等で温められることもないので、熱の出入りは全くありません。断熱変化です。断熱変化ではピストンを引くと温度は下がります。T0 > T1です。
そしてシリンダーを元に戻したら温度も T0 に戻ったということなので、全てが元に戻ったということであり、W1 の仕事と W2 の仕事を合わせたら 0 になるということです。
答えは ⑧ です。
熱力学第1法則の式は2通りの表現方法がありますが、本問の場合は気体の仕事を W とし、
Q = ΔU + W
と表現でき、断熱変化なので Q = 0 であり、
0 = ΔU + W
∴ - ΔU = W
となります。
ピストンを引くとき、気体のする仕事 W1 は正であり、ΔU は負であり、ΔU というのは内部エネルギーのことであり、温度のことであるので、温度が下がるということです。
ピストンを押すとき、気体は仕事をされるので、気体のする仕事 W2 は負であり、ΔU は正であり、温度が上がるということです。
(問8)
この問題は『仕事をされると内部エネルギーが増す』で説明したことを理解しているかどうかを問いただしています。
温度というのは分子のスピードのことです。分子は止まっている壁に当たって跳ね返るとき、スピードは変化しません。下がっていく壁に当たって跳ね返るときはスピードは落ちます。迫ってくる壁に当たって跳ね返るときはスピードは増します。
ピストンがストッパーの位置に固定されているときは、分子のスピードは変化しません。温度は変化しないということです。これは勘違いし易いです。膨張したからといって温度が下がるわけではありません。T0 = T3 です。
ピストンを押し込んでいくときは分子のスピードは上がります。温度が上がるということです。T3 < T4 です。
答えは ① です。
問7においては、前半で仕事をして、後半で仕事をされて、トータルで仕事が 0 でしたが、問8においては、前半で仕事をせず、後半で仕事をされ、トータルで仕事をされ、温度が上がった、ということです。