媒質中を伝わる波動を、ベルトコンベアによる物品の搬送と対応させて、ドップラー効果を考えてみよう。
図1のように十分に長いベルトコンベアがあり、上に乗せたものを一定の速さ V で右に運んでいる。左側にいる作業者Aは、一定の速さ vA で作業者Bに向かって移動しながら、一定の時間間隔 T0 で小さな箱をベルトコンベアの上に乗せていく。右側の作業者Bは、運ばれてくる箱をベルトコンベアの端で回収する。ただし、vA < V とする。
(問1)次の文章中の空欄ア⋅イに入れる式の組合せとして正しいものを、下の①〜⑥のうちから一つ選べ。
作業者Aが静止している場合(vA = 0)はベルトコンベア上の箱の間隔は T0V であるが、動いている場合(vA ≠ 0)は、箱の間隔は d =アとなる。このとき、静止している作業者Bが箱を受け取る時間間隔は T =イである。
ア | イ | |
---|---|---|
① | T0V | \(\large{\frac{d}{V+v_A}}\) |
② | T0V | \(\large{\frac{d}{V-v_A}}\) |
③ | T0(V + vA) | \(\large{\frac{d}{V}}\) |
④ | T0(V + vA) | \(\large{\frac{d}{V-v_A}}\) |
⑤ | T0(V - vA) | \(\large{\frac{d}{V}}\) |
⑥ | T0(V - vA) | \(\large{\frac{d}{V+v_A}}\) |
(問2)次の文章中の空欄ウ〜オに入れる語の組合せとして最も適当なものを、下の①〜⑥のうちから一つ選べ。
作業者A、Bをそれぞれ波源と観測者にみたてて、ドップラー効果との対応を考えてみよう。箱の位置を波の山の位置、作業者Aが箱をおく時間間隔 T0 を波源での波の周期、箱の速さ V を波の速さをみなすと、ベルトコンベア上にならぶ箱の間隔 d は観測される波のウ、作業者Bが箱を受け取る時間間隔 T は観測される波の周期と解釈できる。
波源が運動してドップラー効果が起きているときは、波のエは変わらず、オが変化する。ベルトコンベアの搬送は波動とは異なる現象であるが、上記のように考えると、ドップラー効果を理解することができる。
ウ | エ | オ | |
---|---|---|---|
① | 波長 | 波長 | 振動数 |
② | 波長 | 速さ | 振動数 |
③ | 振動数 | 波長 | 振動数 |
④ | 波長 | 振動数 | 速さ |
⑤ | 振動数 | 振動数 | 速さ |
⑥ | 振動数 | 速さ | 波長 |
#センター14本試
(問1)
ア
直感で T0(V - vA) とわかると思いますが、一応説明しますと、
T0秒の間に起こること:
n個目の箱が、置かれてから T0秒間の間に進む距離は T0V [m] 。(単位は架空)
n個目の箱を置いたあと、(n + 1)個目の箱を置くまでに、作業者Aは T0vA [m] だけ前進している。
よって、n個目の箱と (n + 1)個目の箱との距離は
T0V - T0vA = T0(V - vA)
イ
m個目と (m + 1)個目との距離は d であり、(m + 1)個目の速さは V であるので、m個目が届いてから (m + 1)個目が届く時間は(\(\frac{距離}{速さ}\)=) \(\large{\frac{d}{V}}\) 。
(これは T0 ではありません。T0 はもうちょっと大きいです。T0 だったものが \(\large{\frac{d}{V}}\) に小さくなったことがドップラー効果に例えられます。)
というわけで答えは ⑤ 。
(問2)
ウ 波長
エ
一貫して変わらないのはベルトコンベアの速さであり、これは波の 速さ に例えられます。『音源が動くと振動数が変わる』で説明したように、ドップラー効果が起きている最中でも波の速さは変わりません。風が吹いている場合など、よっぽどの例外があるとき以外は、ドップラー効果における波の速さは一定です。
(ベルトコンベアが動くことは風が吹くことには例えられません。ベルトコンベアの速さは音波の速さ(約340m/s)に例えられます。)
オ
変化するのは、箱の間隔(=波長)と作業者Bが箱を受け取る時間間隔 T です。T0 だったはずのものが \(\large{\frac{d}{V}}\) に小さくなります。この時間間隔 T は波の周期と解釈することができます。そして、周期の逆数が振動数であり、周期が変化するなら 振動数 も変化します。周期が小さくなるとき振動数は大きくなり、振動数が大きくなるということはこれは単位時間当たりの作業者Bが受け取る箱の数が増えることに例えられます。
(v = fλ より、v が一定のとき λ が変化すれば f も変化する、と考えてもいいです。)
というわけで答えは ② 。