陰極線
放電
本来は電気を通さない絶縁体に高い電圧をかけることによって電流が流れる現象を放電といいます。 電池における放電とは意味が少し違います。電池における放電とは、電池の残量が減る、あるいは 0 になることをいいます。
気体放電
気体中で起こる放電を気体放電といいます。カミナリなどがそうです 冬にセーターやドアノブに触ろうとしたときに飛ぶ火花もそうです。 。液体中や固体中で放電が起こることもありますが、たいていの場合、放電といったら気体放電のことです。
電流は普通は導体の中の自由電子が動くものです。気体中には自由電子がわずかしか存在しないので普段は電流が流れません。しかし強い電圧を加えるとわずかな自由電子が加速され他の原子に衝突し、原子を陽イオンと電子に電離し、その電子がまた他の原子に衝突し、電離させます。このようにして次々に発生した電子は陽極(+極)に流れ、陽イオンは陰極(-極)に流れ、この流れが電流となります。
真空放電
ガラス管に電極を封入し、陽極と陰極の間に数千V(ボルト)の高電圧をかけて、管内の空気を真空ポンプで抜いて圧力を下げていくと、両極間に放電が起こります。管内の気体が光り、電流が流れるのです。この放電を真空放電 完全な真空でなくても真空放電といいます。 といいます。
- 1×105Pa(≒1atm 気圧)くらいの日常と同じ圧力の空気では放電が起こりにくいですが、徐々に管内の圧力を下げていくと、
- 1×103Paくらいで放電が始まり、赤紫色の細いひも状の光が発生します
空気の場合、赤紫色ですが、
ネオン気体の場合、赤色で、
水銀気体の場合、青白色です。 。 - さらに圧力を下げていくと、光は管全体に広がり、
- 1×102Paくらいになると今度は光に縞模様が現れ、陰極付近が暗くなっていきます。内部の圧力をこのくらいにした放電管をガイスラー管といいます 19世紀のドイツのガラス細工技術者ガイスラーが発明しました。ネオンサイン、蛍光灯などはガイスラー管の一種です。 。ガイスラー管においては光の色は中に封入する気体の種類によって違ってきます。
- さらに圧力を下げていくと管内の光は薄くなっていきます。
- 1Paくらいになると今度はガラス管壁、特に陽極付近が黄緑色の蛍光を発するようになります
蛍光というのは、物質が自ら光るのではなく外から電磁波(光)や電子をぶつけられることによって光る現象のことです。
この場合、ガラス管壁に蛍光剤が塗ってあるわけではありません。(筆者も分からないのですがおそらく)ガラスは電子を勢い良くぶつけられると黄緑色に蛍光するのだと思います。 。内部の気体が光るのではなく、電子がガラス管壁に当たることによって黄緑色に光るのです。ですので内部に入れた気体の種類に関係なく黄緑色に光ります。光るのは気体ではなく管壁です。内部の圧力をこのくらいにした放電管をクルックス管といいます 19世紀のイギリスの物理学者クルックスが発明しました。 。
陰極線
クルックス管においてガラス管壁、特に陽極付近が蛍光を発するのは、陰極から何かが出て陽極方向に向かい、ガラス管壁にぶつかるためと考えられ、当時の研究者はこの何かを陰極線と名付けました。
電子の発見
陰極線の研究は19世紀末に盛んに行われ、イギリスの物理学者J.J.トムソンは、陰極線を構成する粒子の質量を測定し、陰極線に磁場や電場をかけたときに曲がる方向から粒子が負電荷を持つことを発見し、陰極線の正体が電子の流れであることを示しました。陰極線の研究によって電子は発見されました。陰極線は電子線とも呼ばれます。電子の発見は、それまで物質の最小構成単位であると考えられていた原子がさらに分割可能であることを示しました。
陰極線の性質
陰極線には以下の性質があります。
- 陰極線は目に見えない。 陰極線の正体は電子なので目に見えません。目に見えるようにするにはガラス管壁にぶつけるとか蛍光塗料を塗った板を用いるなどの必要があります。
- 蛍光物質に当たると蛍光を発する。
- 写真フィルムを感光させる。
- 気体の分子や原子に当たって電離させイオンを作る。
- 羽根車に当てると羽根車が回る。
- 直進性がある。
陰極線の進路をさえぎるように金属製の障害物を置くとその形と同じ影ができます。陰極線に直進性があることを示しています。右図は影が見やすいように陽極側の壁を大きくし蛍光物質を塗ったクルックス管です。またこのとき、陰極と陽極を逆にすると影が現れません。このことから陰極線は陰極から陽極に流れていることが分かります。 - 電場をかけると電場の方向と逆向きに曲げられる。
陰極から飛び出した電子はスリットにぶつかるものとスリットをくぐり抜けるものに別れ、くぐり抜けたものは直進し陽極側の壁に当たります。このとき陰極線が見えるように蛍光板を置きます。ここで陰極線の進路に垂直に電場をかけると電場と逆向き、つまり +極側に曲がります。+極側に引き寄せられるのは陰極線が負の電荷を持つからです。 - 磁場をかけるとフレミングの左手の法則にのっとった方向に曲げられる。
上記と同じ装置において電場をかけるのをやめて磁場をかけます。右図のように磁場をかけたとします。電流と磁場の向きをフレミングの左手の法則に当てはめると陰極線が下向きの力を受けることが分かります。陰極線は電子の流れです。電流は電子の流れの逆向きです。つまり右図の電流の向きは左向きです。そして磁場は N極から S極に向かっているので磁場の向きは紙面手前から奥に向かう向きです。これらを左手に当てはめると親指は下向きとなります。つまり力は下向きです。 ここまでの説明で、管壁にぶつかった電子はその後どこに行くのか不思議に思われたかもしれませんが、電子はガラス表面を伝って陽極にたどり着くらしいです。また、陽極がクルックス管の下部にあるのに電子がなぜそちらの方向に向かわずまっすぐ右方向(水平方向)に飛ぶのか不思議に思ったかもしれません。これは陰極の形状に秘密があります。
陰極は左図のように板状になっていて電場は板に垂直の方向を向いています。この電場の向きに沿って電子は加速されるので板と垂直の方向に勢いよく飛び出していきます。
陰極の形状が左図のようではうまくいきません。 - 上記のすべての性質は陰極の金属の種類や封入する気体の種類によらない。
陰極線は電子の流れであり、電子は原子を構成するものであり、あらゆる種類の金属、あらゆる種類の気体の中に含まれています。