交流の補足
誘導起電力の計算の補足
微積を使わない
本編の式 V = - Φ0\(\large{\frac{Δ\cosωt}{Δt}}\) を微積を使わずに計算する方法を説明します。
なぜ単純に約分してはいけないか
似た計算は『磁場を横切る導線』項でもやっていて、そのときは、
V = \(\large{\frac{ΔΦ}{Δt}}\) の分子に
ΔΦ = BΔS = BlvΔt = vBlΔt を代入して
V = \(\large{\frac{ΔΦ}{Δt}}\) = \(\large{\frac{vBlΔt}{Δt}}\) = vBl
と計算しました。しかし今回はそうはいきません。\(\large{\frac{Δ\cosωt}{Δt}}\) = \(\large{\frac{\cosωΔt}{Δt}}\) = cosω とは計算できないからです。
たとえば角度が 30° から2倍の 60° になったときに、cos は \(\large{\frac{\cos60°}{\cos30°}}\) ≒ ≒ 0.57 倍です。2倍にはなりません。cos の中身と外身は変化の仕方が違います。
ですから Δcosωt はちゃんと cosω(t + Δt) - cosωt と変形しなければなりません。これならば cosωt の微小変化量といえます。
前提となる知識
計算を進める上で次のような三角関数の知識が必要となります。数学の教科書に載ってます。
三角関数の加法定理 (4つの式のうち3番目の式を使います。)
sin(α + β) = sinαcosβ + cosαsinβ
sin(α - β) = sinαcosβ - cosαsinβ
cos(α + β) = cosαcosβ - sinαsinβ
cos(α - β) = cosαcosβ + sinαsinβ
ωΔt が極めて小さいとき、
cosωΔt ≒ 1
sinωΔt ≒ ωΔt
(たとえば cos0.01 ≒ 1 であり、sin0.01 ≒ 0.01 です。)
それでは計算してみます
Δcosωt = cosω(t + Δt) - cosωt
= cos(ωt + ωΔt) - cosωt
= cosωt⋅cosωΔt - sinωt⋅sinωΔt - cosωt
= cosωt⋅1 - sinωt⋅ωΔt - cosωt
= - sinωt⋅ωΔt
= - ωΔt sinωt
∴ V = - Φ0\(\large{\frac{Δ\cosωt}{Δt}}\) = - Φ0\(\large{\frac{-ωΔt\sinωt}{Δt}}\) = - Φ0 (- ωsinωt) = Φ0ωsinωt
となり、本編の計算結果と一致します。
(実はここまでの計算自体が cos x の微分を求める計算そのものであったりします。(cos x)' = - sin x であり、(cos2x)' = - 2sin2x です。)
V = vBl を使って誘導起電力の大きさを求める
V = - \(\large{\frac{ΔΦ}{Δt}}\)
を使って回転するコイルの誘導起電力を求めましたが、もう一つ、『磁場を横切る導線』項、『電磁誘導とローレンツ力』項で紹介した磁場を横切る導線に生じる誘導起電力が「 V = vBl 」であることを使って求める方法があります。
コイルが長方形であるとし、角を順番にABCDとし、AB = a [m] 、BC = b [m] とし、磁束密度を B [Wb/m2] 、コイルの回転の角速度を ω [rad/s] 、コイル面の法線と磁場の向きとのなす角を θ [rad](=ωt)とします。
このとき、誘導起電力が生じるのはABとCDだけです。BCとDAには誘導起電力は生じません。磁場を横切ってないからです。磁束を刈り取ってないからです。『斜めに横切る場合』の cosθ が cos90° になっていることになります。電磁誘導のおおもとはローレンツ力であり、磁場を横切らないとローレンツ力は発生しません。*厳密な話をすると、導線BC、導線DA内に存在する電荷にまったくローレンツ力がはたらかないわけではありません。ローレンツ力の方向が導線に垂直な方向であり、『電磁誘導とローレンツ力』項のような電荷分布の偏りが起こらず、BC間、DA間に電位差が生じないのです。
この方向に電位差が生じても意味が無い。
こちら方向に電位差が生じていれば、コイルの起電力として寄与していた。
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ABに生じる誘導起電力を「 V = vBl 」を使って求めてみます。まず v を求めます。
導線ABが周回する速さは(半径)×(角速度)だから \(\large{\frac{b}{2}}\) × ω で、このうち磁場に垂直な成分は sinθ を掛けて \(\large{\frac{b}{2}}\)ωsinθ であり、θ = ωt を代入すると \(\large{\frac{b}{2}}\)ωsinωt となり、これが求める v です。
「 V = vBl 」の l はここでは a のことだから、求める誘導起電力 VAB は、
VAB = \(\large{\frac{b}{2}}\)ωsinωt⋅B⋅a
同様に VCD も、
VCD = \(\large{\frac{b}{2}}\)ωsinωt⋅B⋅a
コイル全体の誘導起電力 V は、
V = VAB + VCD
= bωsinωt⋅B⋅a
= B⋅ab⋅ωsinωt
コイルの面積を S [m2] とし、θ (=ωt) = 0 すなわちコイル面と磁場が垂直のときのコイルを貫く磁束を Φ0 [Wb](=BS)とすると、
V = B⋅ab⋅ωsinωt
= B⋅S⋅ωsinωt
= Φ0ωsinωt
となり、本編と同じ結果が得られます。