単スリット
単スリットによる光の干渉
ヤングの干渉実験、回折格子 において、スリットが2つの場合、多数の場合の光の干渉について説明しましたが、本項ではスリットが1つの場合の光の干渉について説明します。スリットが1つでは干渉しないのではないかと思われるかもしれませんが、実は干渉します。
左図のような装置において、単スリットのスリット幅がとても小さい場合、スクリーンに干渉縞が現れます。スリット幅が 1mm もあると、それは広すぎで、スクリーンにはただの点しか映りません。スリット幅を光の波長(5.0×10-7m)の数倍程度まで細めると、光はわずかに横に広がり、うっすらと縞模様が現れます。
明線・暗線の条件
『ヤングの干渉実験』、『回折格子』と同じ要領で d と λ の関係を求めてみます。スリットの間に12個の素元波が等間隔にあるとみなします。
(dsinθ1 = λ の場合。P1)
左図のように、スリット幅を d とし、A1~A12の各点から素元波が出ているとみなします。いま、スリットの上端をB0、スリットの下端をB12、B0からA1の距離、A12からB12の距離はA1からA2の距離の半分とし、
|B0P1 - B12P1| = λ
を満たすようなP1と θ1 を定めます。
|B0P1 - B12P1| というのは dsinθ1 だから、つまり、
dsinθ1 = λ
となるようにP1と θ1 を定めるということです。
A1~A12の各点からP1に向かって素元波が出ているわけですが、ここで、△B12B0Hに比べ \(\large{\frac{1}{2}}\)の大きさの相似の△三角形を考えますと、この△三角形の底辺の長さは \(\large{\frac{1}{2}}\)λ です。この△三角形を下に少しズラすと、頂点がA1とA7と一致します。このことにより、
|A1P1 - A7P1| = \(\large{\frac{1}{2}}\)λ
とわかります。
『ヤングの干渉実験』で説明したように、光路差 |A1P1 - A7P1| が \(\large{\frac{1}{2}}\)λ になるということは、A1からの波とA7からの波がP1で打ち消し合って暗くなるということです。
同様にして、A2とA8、A3とA9、A4とA10、A5とA11、A6とA12が打ち消し合います。結局全部打ち消し合って、P1は暗くなります。
つまり、dsinθ1 = λ を満たすような点P1は暗くなります。
ここで、A1とA12を見比べれば光路差がほぼ λ なのだから強め合ってP1で明るくなるのではないかと思ってしまうかもしれません。が、そうはなりません。A1の波の山とA12の波の山がP1で重なって大きな山ができそうですが、それと同時にA6の波の谷とA7の波の谷がP1で重なって大きな谷ができるからです。結局大きな山と大きな谷が重なって打ち消し合います。同様にA2、A11、A5、A8の4つも打ち消し合い、A3、A10、A4、A9の4つも打ち消し合います。
つまり、どのような組み合わせで考えても、dsinθ1 = λ のときは暗くなります。
(dsinθ2 = \(\large{\frac{3}{2}}\)λ の場合。P2)
次にもう少し角度をつけて、dsinθ2 = \(\large{\frac{3}{2}}\)λ の場合を考えます。
今度は、△B12B0Hに比べ \(\large{\frac{1}{3}}\)の大きさの相似の△三角形を考えます。すると、この△三角形の底辺の長さは \(\large{\frac{1}{2}}\)λ です。この△三角形を下に少しズラすと、頂点がA1とA5と一致します。このことにより、
|A1P2 - A5P2| = \(\large{\frac{1}{2}}\)λ
とわかります。つまり、A1から出てP2に達した波と、A5から出てP2に達した波は、互いに打ち消し合います。同様に、A2とA6、A3とA7、A4とA8も互いに打ち消し合います。そして、A9、A10、A11、A12が残ります。そして、P2は、この残った4つの波によって明るくなります。
別のいい方をしますと、A9、A10、A11、A12が残るというよりも、
A1+A5+A9=山+谷+山=山
A2+A6+A10=山+谷+山=山
A3+A7+A11=山+谷+山=山
A4+A8+A12=山+谷+山=山
という感じです。
というわけで、dsinθ2 = \(\large{\frac{3}{2}}\)λ を満たすような点P2は明るくなります。
(dsinθ = 0 の場合。P0)
θ = 0 の場合、つまりスリットの正面(P0とします)に進んでいく波については、位相がズレるようなことはなく(例えばA1から出た波が山ならA2~A12から出た波も山)、P0は明るくなります。
(dsinθ = \(\large{\frac{1}{2}}\)λ の場合)
dsinθ = \(\large{\frac{1}{2}}\)λ の場合(P0とP1の中間)は、上の dsinθ2 = \(\large{\frac{3}{2}}\)λ の場合と同様に考えていくと明るくなると分かるのですが、dsinθ = 0 の場合のP0も明るくなるので、これと区別が付きません。「明、明、暗、明、暗、…」と並んでいると二番目の「明」は認識できません。
(一般化)
素元波の数が12個ではなく、もっとたくさんあるとみなすと話が複雑になってしまいますが、以下のように考えると分かりやすくなります。
波が打ち消し合うのは逆位相の波がぶつかるからであり、その位相を考えるために波を描いてしまいます。
左図の青点から出る波と赤点から出る波は位相が逆なので打ち消し合います。
打ち消し合わない黒い部分が残ればスクリーンは明るくなります。
左図は、上で説明した dsinθ = \(\large{\frac{3}{2}}\)λ の場合に相当します。
黒い部分が残らなければスクリーンは暗くなります。
左図は、上で説明した dsinθ = λ の場合に相当します。
黒い部分がわずかしか残らなければスクリーンは少しだけしか明るくなりません。
左図は dsinθ = \(\large{\frac{5}{2}}\)λ の場合に相当します。
黒い部分がたっぷり残ればスクリーンはかなり明るくなります。
左図は dsinθ = \(\large{\frac{1}{2}}\)λ の場合に相当します。
さらにもっと明るくなるのが左図のような場合です。
黒い部分は波が打ち消し合わないとはいえ、位相がズレていることに変わりはなく、多少の打ち消し合いは起こります。その多少の打ち消し合いが上の場合よりも左の場合の方が少ないです。位相のズレがほとんど無いからです。
dsinθ ≒ 0 の場合に相当します。P0付近を照らす光です。
というわけで単色光を単スリットに通し、スクリーンに当てたときの光の強度分布は左図のようになります。
以上まとめますと、回折格子の場合とほぼ逆になり、以下のようになります。
単スリット
明線の条件 dsinθ = 0 , (m+\(\large{\frac{1}{2}}\)) λ
暗線の条件 dsinθ = m λ
(m = 1,2,3,…)
m は、「m = 0,1,2,…」ではなく、「m = 1,2,3,…」です。
回折格子と単スリットの競合
単スリットの条件式を回折格子の場合の条件式と見比べると、単スリットをたくさん連ねて回折格子を作った場合、dsinθ = λ を満たす点ではいったい明るくなるのか暗くなるのか?という疑問がわくかもしれません。回折格子の条件式の d はスリット間隔であり、単スリットの条件式の d はスリット幅であり違うものですが、双方の d が同じ値であるとき sinθ の値も同じになり、その角度が指す箇所では、回折格子の条件式に従えば明るくなるはずが、単スリットの条件式に従うと暗くなってしまいます。たとえばスリット幅が 0.1mm で、スリット間隔も 0.1mm の場合です。
このような場合はスリットから飛び出してくる光が暗いわけですからやっぱり暗くなります。
このようなことを防ぐためにはスリット幅を小さくしなければなりません。そうすれば sinθ の値が大きくなり(これは単スリットの条件式による sinθ です)、回折格子の条件式による sinθ の値と競合しなくなります。
ですから回折格子はスリット間隔よりスリット幅が小さいもののほうが性能がいいということになります。