qH7D4

 図1のように、直流電源、真空中の電気容量が C である平行板コンデンサーA、B、抵抗値 R の抵抗、およびスイッチS0、Sを接続した回路を考える。コンデンサーA、Bの極板は真空中に固定されており、極板間に、上下すき間なく比誘電率 εr(> 1)の誘電体を挿入する。極板は長方形で、極板と誘電体の紙面に垂直な方向の幅は等しく、極板の上から見ると図2のように並んでいる。そこで図1の x方向の長さや位置に注目する。極板の長さはそれぞれ 2a であり、コンデンサーAの極板とコンデンサーBの極板は 2a 離れている。誘電体の長さは 4a である。 図1のように x の原点をとり、誘電体の位置を中心の座標 x で表すと、誘電体は x = - a から a の範囲でなめらかに動かすことができる。したがって、コンデンサーA、Bの電気容量 CACBx の関数となる。最初、コンデンサーA、Bには電荷はなく、スイッチS0、Sは開いている。問1〜5に答えなさい。また、導出の過程も示しなさい。なお、極板の端の影響、 R 以外の抵抗は無視してよい。

図 1
図 2

(問1)電気容量 CACBCεra を用いて x の関数として表しなさい。

(問2)まず、誘電体を x = - a におき、スイッチS0、Sを閉じ十分に時間が経過したあと、スイッチS0を開いた。両方のコンデンサーに蓄えられている電気量の和を Q としたとき、コンデンサーA、Bに蓄えられた電気量 QAQBQεr を用いて表しなさい。

(問3)次にスイッチSを開き、誘電体に外力を加えて x = - a から a までゆっくり動かした。コンデンサーA、Bに蓄えられている静電エネルギー UAUBQCεra を用いて x の関数として表しなさい。
(誘電体が x = - a から a の範囲にあるときについて答えなさい。)

(問4)その後、スイッチSを閉じると抵抗に電流 I が流れた。スイッチを閉じた直後の電流の大きさ I0 とその向きを求めなさい。また、電流 I が時間とともにどのように変化するか、スイッチSを閉じた時刻を t = 0 として、その概略を描きなさい。

(問5)問4の操作を行ったとき、スイッチSを閉じてから十分に時間が経過するまでの間に、抵抗で発生するジュール熱を求めなさい。

#神戸大15

(問1)

(まず真空中での電気容量 C の式を立てる)
コンデンサーの極板間の距離を d 、長方形の極板の 2a ではない方の辺の長さを b 、真空の誘電率を ε0 とします。そうしますと、真空中のコンデンサーの電気容量C = ε\(\large{\frac{S}{d}}\))の式は

    C = ε0\(\large{\frac{2ab}{d}}\)  ……①

 

CACB の式を立てる)
電気容量を考えるときにはコンデンサーは横方向に分割できるとみなせるので、

コンデンサーAは、a+x の真空中のコンデンサーと、a-x の誘電体を挟んだコンデンサーが並列に接続されているとみなし、

    CA = ε0\(\large{\frac{(a+x)b}{d}}\) + εrε0\(\large{\frac{(a-x)b}{d}}\)

      = ε0\(\large{\frac{(a+x)+ε_r(a-x)}{d}}\)b  ……②

同様に、コンデンサーBは、a+x の誘電体を挟んだコンデンサーと、a-x の真空中のコンデンサーが並列に接続されているとみなし、

    CB = εrε0\(\large{\frac{(a+x)b}{d}}\) + ε0\(\large{\frac{(a-x)b}{d}}\)

      = ε0\(\large{\frac{ε_r(a+x)+(a-x)}{d}}\)b  ……③

 

(自分で設定した dbε0 を消去)
①式を変形して、

    ε0\(\large{\frac{2ab}{d}}\) = C

    ε0\(\large{\frac{b}{d}}\) = \(\large{\frac{C}{2a}}\)

これを②式に代入して、

     CA = \(\large{\frac{(a+x)+ε_r(a-x)}{2a}}\)C

      = \(\large{\frac{a+x+ε_ra-ε_rx}{2a}}\)C

     = \(\large{\frac{-(ε_r-1)x+(ε_r+1)a}{2a}}\)C

同様に、③式に代入して、

     CB = \(\large{\frac{ε_r(a+x)+(a-x)}{2a}}\)C

      = \(\large{\frac{ε_ra+ε_rx+a-x}{2a}}\)C

     = \(\large{\frac{(ε_r-1)x+(ε_r+1)a}{2a}}\)C

 

コンデンサーは誘電体を挟むと電気容量が大きくなるものですが、上の2式を見ますと、x が大きくなるほど(誘電体が右にズレていくほど)、CA の値は小さくなり、CB の値は大きくなるようにちゃんとなっています。

 

 

(問2)

このとき、CA = εrCCB = C であり、電源の電圧を V としますと各電気量は、

    QA = CAV = εrCV  ……④

    QB = CBV = CV  ……⑤

題意より Q = QA + QB だから、

    Q = εrCV + CV

 ∴  \(\large{\frac{Q}{ε_rC+C}}\) = V

これを④式、⑤式に入れ戻しますと、

     QA = εrC\(\large{\frac{Q}{ε_rC+C}}\) = \(\large{\frac{ε_r}{ε_r+1}}\)Q

     QB = C\(\large{\frac{Q}{ε_rC+C}}\) = \(\large{\frac{1}{ε_r+1}}\)Q

 

 

(問3)

誘電体を動かす前にスイッチは開かれているので、コンデンサーA、Bに蓄えられた電気量 QAQB の値は問2のままです。

電気容量は x によって変化しますが、その値は問1で求めました。

すなわち、

    CA = \(\large{\frac{-(ε_r-1)x+(ε_r+1)a}{2a}}\)C

    CB = \(\large{\frac{(ε_r-1)x+(ε_r+1)a}{2a}}\)C

    QA = \(\large{\frac{ε_r}{ε_r+1}}\)Q

    QB = \(\large{\frac{1}{ε_r+1}}\)Q

この各値をコンデンサーの静電エネルギーの式( U = \(\large{\frac{1}{2}}\)⋅\(\large{\frac{Q^2}{C}}\) )に代入しますと、

     UA = \(\large{\frac{1}{2}}\)⋅\(\large{\frac{{Q_\rm{A}}^2}{C_\rm{A}}}\)

      = \(\large{\frac{1}{2}}\)⋅\(\Large{\frac{(\frac{ε_r}{ε_r+1}Q)^2}{\frac{-(ε_r-1)x+(ε_r+1)a}{2a}C}}\)

      = \(\large{\frac{(\frac{ε_r}{ε_r+1}Q)^2a}{\{-(ε_r-1)x+(ε_r+1)a\}C}}\)

      = \(\large{\frac{{ε_r}^2Q^2a}{(ε_r+1)^2\{-(ε_r-1)x+(ε_r+1)a\}C}}\)

 

     UB = \(\large{\frac{1}{2}}\)⋅\(\large{\frac{{Q_\rm{B}}^2}{C_\rm{B}}}\)

      = \(\large{\frac{1}{2}}\)⋅\(\Large{\frac{(\frac{1}{ε_r+1}Q)^2}{\frac{(ε_r-1)x+(ε_r+1)a}{2a}C}}\)

      = \(\large{\frac{(\frac{1}{ε_r+1}Q)^2a}{\{(ε_r-1)x+(ε_r+1)a\}C}}\)

      = \(\large{\frac{Q^2a}{(ε_r+1)^2\{(ε_r-1)x+(ε_r+1)a\}C}}\)

 

 

(問4)

スイッチSが閉じられる直前までは、引き続き、コンデンサーA、Bに蓄えられた電気量 QAQB の値は問2のままであり、

各電気容量は、x = a であるので、

    CA = C

    CB = εrC

であり、このときのコンデンサーAの電圧を VA 、コンデンサーBの電圧を VB とすると、(Q = CV)の関係より、

    VA = \(\large{\frac{Q_\rm{A}}{C_\rm{A}}}\) = \(\large{\frac{ε_r}{ε_r+1}}\)Q⋅\(\large{\frac{1}{C}}\) = \(\large{\frac{ε_r}{ε_r+1}}\)⋅\(\large{\frac{Q}{C}}\)

    VB = \(\large{\frac{Q_\rm{B}}{C_\rm{B}}}\) = \(\large{\frac{1}{ε_r+1}}\)Q⋅\(\large{\frac{1}{ε_rC}}\) = \(\large{\frac{1}{(ε_r+1)ε_r}}\)⋅\(\large{\frac{Q}{C}}\)

εr > 1 であるので VA > VB であり、抵抗に流れる電流は 右向き とわかります。

そして、その大きさ(スイッチを閉じた直後の電流の大きさ I0)を求めるためにキルヒホッフの第2法則の式を立てますと、

    \(\large{\frac{ε_r}{ε_r+1}}\)⋅\(\large{\frac{Q}{C}}\) - RI0 - \(\large{\frac{1}{(ε_r+1)ε_r}}\)⋅\(\large{\frac{Q}{C}}\) = 0

 ∴  RI0 = \(\large{\frac{ε_r}{ε_r+1}}\)⋅\(\large{\frac{Q}{C}}\) - \(\large{\frac{1}{(ε_r+1)ε_r}}\)⋅\(\large{\frac{Q}{C}}\)

 ∴   I0 = \(\big\{\large{\frac{ε_r}{ε_r+1}}\) - \(\large{\frac{1}{(ε_r+1)ε_r}}\}\)⋅\(\large{\frac{Q}{CR}}\)

      = \(\big\{\large{\frac{{ε_r}^2-1}{(ε_r+1)ε_r}}\}\)⋅\(\large{\frac{Q}{CR}}\)

      = \(\big\{\large{\frac{(ε_r+1)(ε_r-1)}{(ε_r+1)ε_r}}\}\)⋅\(\large{\frac{Q}{CR}}\)

      = \(\large{\frac{(ε_r-1)Q}{ε_rCR}}\)

スイッチを閉じた直後は勢い良く電荷が移動して行きますが、電荷が移動するにつれてAの電圧は下がり、Bの電圧は上がるので、その勢いは徐々に落ちていき(変化量は小さくなり)、やがてA、Bの電圧が等しくなり、電流は止まります。よって電流の時間変化は以下のようになります。

 

 

(問5)

抵抗で発生するジュール熱というのは、2つのコンデンサーの静電エネルギーの減少量と同等です。エネルギーは他に逃れる先が無いので、静電エネルギーの減少分は全てジュール熱に使われます。

スイッチSを閉じる前の静電エネルギーは問3で求めましたが、スイッチSを閉じた後の静電エネルギーを改めて求めてみます。

スイッチSを閉じて十分に時間が経過した後の、コンデンサーA、Bに蓄えられた電気量を QA' 、QB' 、コンデンサーA、Bに蓄えられた静電エネルギーを UA' 、UB' とします。

各コンデンサーの電気容量は問4と同じく、

    CA = C

    CB = εrC

であり、スイッチSを閉じて十分に時間が経過した後は2つのコンデンサーの電圧V = \(\large{\frac{Q}{C}}\) )は等しくなっていますから、

    \(\large{\frac{Q_\rm{A}'}{C_\rm{A}}}\) = \(\large{\frac{Q_\rm{B}'}{C_\rm{B}}}\)

 ∴  \(\large{\frac{Q_\rm{A}'}{C}}\) = \(\large{\frac{Q_\rm{B}'}{ε_\rm{r}C}}\)

 ∴  QA' = \(\large{\frac{Q_\rm{B}'}{ε_\rm{r}}}\)  ……⑥

そして、2つのコンデンサーの電荷の総量は他に逃げ所が無いので Q のままであり、つまり、

    QA' + QB' = Q  ……⑦

です。⑥式をこれに代入して、

    \(\large{\frac{Q_\rm{B}'}{ε_\rm{r}}}\) + QB' = Q

 ∴  \(\large{\frac{1+ε_\rm{r}}{ε_\rm{r}}}\)QB' = Q

 ∴  QB' = \(\large{\frac{ε_\rm{r}}{ε_\rm{r}+1}}\)Q

⑦式に入れ戻して、

    QA' + \(\large{\frac{ε_\rm{r}}{ε_\rm{r}+1}}\)Q = Q

 ∴  QA' = Q - \(\large{\frac{ε_\rm{r}}{ε_\rm{r}+1}}\)Q

      = \(\large{\frac{ε_\rm{r}+1-ε_\rm{r}}{ε_\rm{r}+1}}\)Q

      = \(\large{\frac{1}{ε_\rm{r}+1}}\)Q

これらの値はよく見ると問2で求めた値

    QA = \(\large{\frac{ε_r}{ε_r+1}}\)Q  ……⑧

    QB = \(\large{\frac{1}{ε_r+1}}\)Q  ……⑨

と逆になっています。回路においてスイッチを操作した結果、QA' = QBQB' = QA となったのです。

各コンデンサーの静電エネルギー( U = \(\large{\frac{1}{2}}\)⋅\(\large{\frac{Q^2}{C}}\) )は

    UA' = \(\large{\frac{1}{2}}\)⋅\(\large{\frac{{{Q_\rm{A}}'}^2}{C_\rm{A}}}\) = \(\large{\frac{1}{2}}\)⋅\(\large{\frac{{Q_\rm{B}}^2}{C}}\)

    UB' = \(\large{\frac{1}{2}}\)⋅\(\large{\frac{{{Q_\rm{B}}'}^2}{C_\rm{B}}}\) = \(\large{\frac{1}{2}}\)⋅\(\large{\frac{{Q_\rm{A}}^2}{ε_rC}}\)

であり、スイッチSを閉じる前の各コンデンサーの静電エネルギーは(問3で求めた静電エネルギーの x = a の場合のことですが)、

    UA = \(\large{\frac{1}{2}}\)⋅\(\large{\frac{{Q_\rm{A}}^2}{C_\rm{A}}}\) = \(\large{\frac{1}{2}}\)⋅\(\large{\frac{{Q_\rm{A}}^2}{C}}\)

    UB = \(\large{\frac{1}{2}}\)⋅\(\large{\frac{{Q_\rm{B}}^2}{C_\rm{B}}}\) = \(\large{\frac{1}{2}}\)⋅\(\large{\frac{{Q_\rm{B}}^2}{ε_rC}}\)

です。よって静電エネルギーの減少分は

     (UA + UB) - (UA' + UB')

    = \(\big(\large{\frac{1}{2}}\)⋅\(\large{\frac{{Q_\rm{A}}^2}{C}}\) + \(\large{\frac{1}{2}}\)⋅\(\large{\frac{{Q_\rm{B}}^2}{ε_rC}})\) - \(\big(\large{\frac{1}{2}}\)⋅\(\large{\frac{{Q_\rm{B}}^2}{C}}\) + \(\large{\frac{1}{2}}\)⋅\(\large{\frac{{Q_\rm{A}}^2}{ε_rC}})\)

    = \(\large{\frac{1}{2C}}\)⋅\(\big(\)QA2 + \(\large{\frac{{Q_\rm{B}}^2}{ε_r}}\) - QB2 - \(\large{\frac{{Q_\rm{A}}^2}{ε_r}})\)

    = \(\large{\frac{1}{2C}}\)⋅\(\big(\)QA2 - \(\large{\frac{{Q_\rm{A}}^2}{ε_r}}\) - QB2 + \(\large{\frac{{Q_\rm{B}}^2}{ε_r}})\)

    = \(\large{\frac{1}{2C}}\)⋅\(\Big\{\big(\)1 - \(\large{\frac{1}{ε_r}})\)QA2 - \(\big(\)1 - \(\large{\frac{1}{ε_r}})\)QB2\(\Big\}\)

    = \(\large{\frac{1}{2C}}\)⋅\(\Big\{\big(\)1 - \(\large{\frac{1}{ε_r}})\)\(\big(\)QA2 - QB2\(\big)\Big\}\)

    = \(\large{\frac{1}{2C}}\)⋅\(\Big\{\big(\)\(\large{\frac{ε_r-1}{ε_r}})\)\(\big(\)QA2 - QB2\(\big)\Big\}\)

⑧式、⑨式を代入して、

    = \(\large{\frac{1}{2C}}\)⋅\(\Big\{\big(\)\(\large{\frac{ε_r-1}{ε_r}})\)\(\big(\)\(\large{\frac{{ε_r}^2}{(ε_r+1)^2}}\)Q2 - \(\large{\frac{1^2}{(ε_r+1)^2}}\)Q2\(\big)\Big\}\)

    = \(\large{\frac{1}{2C}}\)⋅\(\Big\{\big(\)\(\large{\frac{ε_r-1}{ε_r}})\large{\frac{({ε_r}^2-1)}{(ε_r+1)^2}}\)\(Q^2\Big\}\)

    = \(\large{\frac{1}{2C}}\)⋅\(\Big\{\)\(\large{\frac{ε_r-1}{ε_r}}⋅\large{\frac{(ε_r+1)(ε_r-1)}{(ε_r+1)^2}}\)\(Q^2\)\(\Big\}\)

    = \(\large{\frac{1}{2C}}\)⋅\(\Big\{\large{\frac{(ε_r-1)^2}{ε_r(ε_r+1)}}\)\(Q^2\)\(\Big\}\)

    = \(\)\(\large{\frac{(ε_r-1)^2Q^2}{2ε_r(ε_r+1)C}}\)\(\)

 

電気量の総量が一定だからといって静電エネルギーの総量も一定であるわけではありません。静電エネルギーは電気量と電圧を掛けたもの U = \(\large{\frac{1}{2}}\)QV = \(\large{\frac{1}{2}}\)CV2 = \(\large{\frac{1}{2}}\)⋅\(\large{\frac{Q^2}{C}}\) なので、同じ電気量でも電圧の高い所に存在した方が静電エネルギーは大きくなります。スイッチSを閉じたことによって電荷が電圧の低い方へ移動したのでエネルギーは低くなりました。低くなった分のエネルギーは抵抗の部分で消費された(発熱した)わけです。