誘電率
コンデンサーの式
『コンデンサー』項の最後で示した、コンデンサーに溜まる電荷 Q と極板間の電位差 V の関係式は、
Q = \(\underbrace{\underbrace{\large{\frac{1}{4\pi k}}}_{ε}\large{\frac{S}{d}}}_{C}\)V ……①
というものでしたが、\(\large{\frac{1}{4\pi k}\frac{S}{d}}\) を電気容量 C としますと、
Q = CV ……②
となり、さらに \(\large{\frac{1}{4\pi k}}\) を ε としますと、
C = ε\(\large{\frac{S}{d}}\) ……③
となります。ε を誘電率といい、イプシロンと読みます。上式より、単位は、 [F]=ε\(\large{\frac{[\rm{m^2}]}{[\rm{m}]}}\) ⇒ [F]=ε[m] ⇒ ε=\(\large{\frac{[\rm{F}]}{[\rm{m}]}}\) つまり、[F/m] です。
誘電率
誘電率は、極板間に詰められた媒質の誘電分極のしやすさを表します。左のイラストでいいますと、青と赤のズレの度合いのことです。
誘電分極しやすい物質は ε の値が大きくなり、それにともなって C の値が大きくなります(③式)。C が大きいということはコンデンサーとしての性能が高い、たくさん電荷を溜められる、ということです。
真空の誘電率は ε0 と表し、その値は
ε0 ≒ 8.85×10-12 F/m
です。空気の誘電率もほぼ同じです。
ε = \(\large{\frac{1}{4\pi k}}\) ですので、真空の誘電率の値を代入すれば分母の k の値も定まります。もともとこの k というは、電気力線の本数から来ていました。さらにそれはガウスの法則から来ていて、さらにそれはクーロンの法則
F = k\(\large{\frac{q_1q_2}{r^2}}\)
から来ていました。誘電率が大きいときは k は小さくなるので、このときはクーロン力も小さいということです。
なお、ε = \(\large{\frac{1}{4\pi k}}\) の式に ε0 ≒ 8.85×10-12 の値を代入したときの k の値が k0 = 9.0×109 N⋅m2/C2 です。
(『透磁率』もご参照ください。)
比誘電率
誘電率は物質(誘電体)によって様々な値をとるのですが、通常、その値は用いられません。誘電の度合いを示すときは、真空の誘電率との比で表します。その比を比誘電率といいます。「率」という漢字には『比』という意味が込められているので、比誘電率という言葉は「誘電の比の比」という意味になってしまっていて、ちょっとややこしいです*なんでややこしくなっているかといいますと、そもそも真空の誘電率というものが単位を揃えるための便宜上のものだからです。この値を定めておくと、他の単位がきれいにそろうのです。そして、真空は誘電分極するわけではないので誘電体とはいえないんですが、もっとも誘電分極しにくい場合の誘電率というものを決めておかないと都合が悪くて、その値を真空の誘電率と呼んで、これを基準に、どれくらい誘電分極しやすいのかを物質別に測定して、それを比誘電率と呼んだわけです。ですから「誘電率」よりも「比誘電率」の方が実体のある数値とみなされてしまう逆転現象が起きたわけです。
閉じる。
比誘電率を εr で表します*r はおそらく relative (比較上の)の頭文字から
閉じる。
\(\large{\frac{ε}{ε_0}}\) = εr ……④
です。④式を変形した ε = εrε0 を③式 C = ε\(\large{\frac{S}{d}}\) に代入しますと、
C = εrε0\(\large{\frac{S}{d}}\) ……⑤
となります。S も d も変わらない、つまりコンデンサーの形が変わらないとき、極板間の媒質の比誘電率が 2.0 の場合、電気容量 C が、真空(≒空気)のときと比べて、2.0倍になるということです。
真空(≒空気)での電気容量が C0 = ε0\(\large{\frac{S}{d}}\) であるとすると、
C = εrC0 ……⑥
となるということです。電気容量が εr 倍になります。
また、⑥式を②式 Q = CV に代入すると、
Q = εrC0V ……⑦
となり、この式は、真空のときの式 Q = C0V と比較して考えると、
V が一定なら Q が εr 倍 、
Q が一定なら V が \(\large{\frac{1}{ε_r}}\) 倍 になる、
ということです。
比誘電率の例
空気の誘電率は真空の誘電率とほぼ同じなので、空気の比誘電率は 約1.0 です。紙やゴムの比誘電率は 2.0 くらい、雲母が 7.0 くらい、水が 80 くらい、チタン酸バリウムという物質が 5000 くらいです。チタン酸バリウムはコンデンサー部品によく用いられます。
誘電体は電場を弱めようとする
コンデンサーを帯電させることを充電するといいますが、充電した平行板コンデンサーの極板間に誘電体を挿入すると、誘電体は誘電分極を起こし、誘電分極によって発生した電荷が新たな電場を作り、元の電場が弱められます。(実際のコンデンサーの極板間はものすごく狭いです。)
電源の有無
誘電体を挿入するとき、電源につながれている場合とつながれていない場合で違いが出ます。
充電後、電源をつなげずに誘電体を挿入する
電位差 V の電源につなげて充電したコンデンサーに、電源を切った状態で、(極板間に隙間ができないよう)比誘電率が εr の誘電体を挿入します。すると誘電体内で誘電分極が起こり、それによってできた電荷が電場を弱めます。
そしてこのとき、コンデンサーは電源とつながってないので電荷の供給を受けません。Q が増えずに一定です。
⑦式 Q = εrC0V において左辺の Q が一定なのです。⑦式の右辺は、極板間が空気のときが C0V で、極板間に誘電体を挿入したときが εrC0V です。左辺は一定なのですから右辺の V は \(\large{\frac{1}{ε_r}}\) 倍 になっているということです。誘電分極によって電場 E が弱められ、電圧 V が下がったのです。
まとめますと、
充電したコンデンサーに、電源をつなげない状態で、誘電体を挿入すると、Q は一定で、C は εr 倍になり、V は \(\large{\frac{1}{ε_r}}\) 倍 になる、
ということです。
充電後、電源をつなげたまま誘電体を挿入する
電位差 V の電源につなげて充電したコンデンサーに、電源をつなげたまま、(極板間に隙間ができないよう)比誘電率が εr の誘電体を挿入します。すると誘電体内で誘電分極が起こり、それによってできた電荷が電場を弱めます。ここまでは上と同じです。
このとき、コンデンサーは電源とつながっているので電荷の供給を受けます。電荷が押し合いへし合いをして電源から極板に移ってくるのです。コンデンサーの Q が増えるのです。電荷の移動は、電源とコンデンサーが等電位になるまで続きます。等電位ということは電源*電源は、電荷を失ったとしても電位は下がりません。電源は無尽蔵に電荷を生み出す装置とみなせます。
閉じるとコンデンサーの電位が同じ、電位差が同じ、つまりコンデンサーの電位差は元と同じ V を維持します。
⑦式 Q = εrC0V において V が一定なのです。⑦式の右辺は、極板間が空気のときが C0V で、極板間に誘電体を挿入したときが εrC0V です。いま V が一定なので、左辺の Q は εr 倍になります。誘電分極によって電場 E が弱められましたが、電源とつながっているので電荷が移動してきて、電荷 Q が増え、電圧 V は維持されたのです。
まとめますと、
充電したコンデンサーに、電源をつなげた状態で、誘電体を挿入すると、Q は εr 倍になり、C も εr 倍になり、V は一定のままである、
ということです。
どちらの場合も電気容量は大きくなる
というように、電源につながれている場合とつながれていない場合では、電荷 Q と電圧 V の変化の仕方に違いがあり、電気容量 C についてはどちらの場合でも、空気の場合の C0 に比べて εr 倍になります。
コンデンサーは誘電体を挟むと電気容量が大きくなるのです。(『誘電体を挟んだコンデンサー』参照)