qH7D2

 超音波は人間の耳には聞こえない振動数が大きい音波であるが、指向性が高いという性質を持ち、広く応用にも使われている。ここでは、超音波は空気中をまっすぐに伝わり、超音波を反射する壁(以下、壁)では、反射の法則にしたがって反射するものとして考えよう。ある振動数の超音波を水平方向に発生する装置(以下、音源)が台車に固定されていて、台車はレールの上を一定の速度で移動できるものとする。問1〜3に答えなさい。文中に与えられた物理量の他に解答に必要な物理量があれば、それらを表す記号はすべて各自で定義し、解答欄に明示しなさい。

 

図 1

 図1のように、台車上の音源が超音波を発生させながら観測者から一定の速度で遠ざかっていて、台車の移動する方向に壁がある場合を考える。

(問1)このとき、観測者には異なる振動数の2つの超音波が届いており、それらの超音波が重なり合ってうなりとして観測された。これら2つの超音波の振動数を表す式と、うなりの振動数(1秒間あたりのうなりの回数)を表す式を求めなさい。

 

図 2

 つぎに、図2のように、観測者が台車にのって音源とともに壁に向かって移動する場合を考える。このときにも、観測者にはうなりが観測された。台車の速さを変えて何回か観測を行ったところ、台車の速さが 2.000m/s のときのうなりの振動数は 400Hz であり、うなりの振動数が 2000Hz になるのは台車の速さが 9.770m/s のときであった。

(問2) (1) うなりの振動数を表す式を求めなさい。
(2) さらに、観測した数値を用いることによって、空気中を超音波が進む速さと、音源が発生している超音波の振動数を、有効数字3けたで求めなさい。

 

図 3

 つぎに、図3のように、壁がレールと平行に w だけ離れたところにある場合を考える。図3は上から見た図であり、観測者はレールのすぐそばにいて、観測者とレールの距離は w に比べて無視でき、音源の位置は観測者の位置を原点Oとして右向きを正とする変数 x で表される。音源と台車が左から右へ一定の速度で移動したときにも、観測者にはうなりが観測された。

(問3)音源が x を通過するときに発生した超音波が壁で反射して観測者に届いたときの振動数を、x の関数として求めて、その関数のグラフの概略を描きなさい。グラフ中には、x が 0 のときと正負で十分大きいときの振動数の式を記入しなさい。

#神戸大14

(問1)
超音波が空気中を伝わる速さ(音速)を V
音源が移動する速さを vs 添字の s は sound の頭文字のつもりです。あるいは source です。
音源で発生する超音波の振動数を f0
観測者が観測する、音源から観測者に直接伝わる超音波の振動数を f1
壁で観測される超音波の振動数を f2
観測者が観測する、壁に反射してから観測者に伝わる超音波の振動数を f3
観測者が観測するうなりの振動数を b1 beat frequency の頭文字のつもりです。
他に適当に量記号を定めて構いません。

とします。

ドップラー効果の公式f = \(\large{\frac{V-v_{\rm{o}}}{V-v_{\rm{s}}}}\) f0 )に代入しますと、

    f1 = \(\large{\frac{V-0}{V-(-v_{\rm{s}})}}\) f0 = \(\large{\frac{V}{V+v_{\rm{s}}}}\) f0

    f2 = \(\large{\frac{V-0}{V-(v_{\rm{s}})}}\) f0 = \(\large{\frac{V}{V-v_{\rm{s}}}}\) f0

観測者は静止しているので f2 の振動数をそのまま観測し、

    f3 = f2 = \(\large{\frac{V}{V-v_{\rm{s}}}}\) f0

f1f3うなりの公式f = | f1 - f2 | )に代入しますと、

    b1 = | f1 - f3 |   f1 < f3 だから Vvsf1f3 も正であり、分母の形をよく見ますと、
f1 < f3 であることがわかります。

      = f3 - f1

      = \(\large{\frac{V}{V-v_{\rm{s}}}}\normalsize{f_0}\) - \(\large{\frac{V}{V+v_{\rm{s}}}}\) f0

      = \(\big(\large{\frac{V}{V-v_{\rm{s}}}}\) - \(\large{\frac{V}{V+v_{\rm{s}}}})\) f0

      = \(\Big\{\large{\frac{V(V+v_{\rm{s}})}{(V-v_{\rm{s}})(V+v_{\rm{s}})}}\) - \(\large{\frac{(V-v_{\rm{s}})V}{(V-v_{\rm{s}})(V+v_{\rm{s}})}}\)\(\Big\}\) f0

      = \(\large{\frac{V(V+v_{\rm{s}})-(V-v_{\rm{s}})V}{(V-v_{\rm{s}})(V+v_{\rm{s}})}}\) f0

      = \(\large{\frac{V^2+Vv_{\rm{s}}-V^2+Vv_{\rm{s}}}{V^2-v_{\rm{s}}{^2}}}\) f0

      = \(\large{\frac{2Vv_{\rm{s}}}{V^2-v_{\rm{s}}{^2}}}\) f0

 

 

(問2)
(1)
問1で定義した物理量以外に、
観測者が観測する、音源から観測者に直接伝わる超音波の振動数を f4
観測者が観測する、壁に反射してから観測者に伝わる超音波の振動数を f5
観測者が観測するうなりの振動数を b2
とします。

そうしますと、観測者と音源は一緒に動いているので、

    f4 = f0

壁で観測される超音波の振動数は問1と同じで、

    f2 = \(\large{\frac{V}{V-v_{\rm{s}}}}\) f0

ですが、今度は観測者が動いているので、さらにドップラー効果が起こり、

    f5 = \(\large{\frac{V-(-v_{\rm{s}})}{V-(0)}}\) f2

      = \(\large{\frac{V+v_{\rm{s}}}{V}}\) f2

      = \(\large{\frac{V+v_{\rm{s}}}{V}}\)⋅\(\large{\frac{V}{V-v_{\rm{s}}}}\) f0

      = \(\large{\frac{V+v_{\rm{s}}}{V-v_{\rm{s}}}}\) f0

よって、うなりの振動数は

    b2 = | f4 - f5 |   f4 < f5 だから

      = f5 - f4

      = \(\large{\frac{V+v_{\rm{s}}}{V-v_{\rm{s}}}}\) f0 - f0

      = \(\large{\frac{(V+v_{\rm{s}})-(V-v_{\rm{s}})}{V-v_{\rm{s}}}}\) f0

      = \(\large{\frac{2v_{\rm{s}}}{V-v_{\rm{s}}}}\) f0

 

(2)
上式に
vs = 2.000 、b2 = 400 を代入すると、

    400 = \(\large{\frac{2×2.000}{V-2.000}}\) f0

 ∴  400V - 800 = 4 f0  ……①

vs = 9.770 、b2 = 2000 を代入すると、

    2000 = \(\large{\frac{2×9.770}{V-9.770}}\) f0

 ∴  2000V - 19540 = 19.540 f0  ……②

①を5倍して、

    2000V = 20 f0 + 4000

②式に代入すると、

    20 f0 + 4000 - 19540 = 19.540 f0

 ∴  0.460 f0 = 15540

 ∴  f0 ≒ 33780

これを①式に代入すると、

    400V - 800 = 4×33780

 ∴  400V = 135120 + 800

 ∴  400V = 135920

 ∴  V = 339.8

答え V = 3.40×102 [m/s] 、f0 = 3.38×104 [Hz]

 

 

(問3)
(問題文に「うなりが観測された」とありますが、うなりの振動数を求めるわけではなく、壁で反射した超音波の振動数を求めよ、という問題です)

壁で観測される超音波の振動数を f6 とします。観測者は静止しているので、観測者が観測する振動数も f6 です。

反射する波は反射の法則により入射角と反射角が等しくなっていますが、台車は移動しているので、

反射して観測者に届く超音波の経路は左図のようになります。


左図のように θ を定めますと、

壁にとっては音源が vscosθ の速度で迫ってくることになります。

つまり、壁で観測される超音波の振動数は

  f6 = \(\large{\frac{V-0}{V-v_{\rm{s}}\cosθ}}\) f0 = \(\large{\frac{V}{V-v_{\rm{s}}\cosθ}}\) f0  ……③

ところで、左図の赤色三角形と緑色三角形は、2つの角の大きさが同じなので相似であり、

  cosθ = \(\Large{\frac{\Large{-\frac{x}{2}}}{\sqrt{(-\frac{x}{2})^2+w^2}}}\)

であるとわかります。
x の前に - が付くのは、原点Oの左側では x が負であり、長さに直すときはそれに - を付けて正にする必要があるからです)

計算して、

    cosθ = \(\Large{\frac{\Large{-\frac{x}{2}}}{\sqrt{(-\frac{x}{2})^2+w^2}}}\) = \(\Large{\frac{\Large{-\frac{x}{2}}×2}{\sqrt{\big\{(-\frac{x}{2})^2+w^2\big\}×4}}}\) = \(\large{\frac{-x}{\sqrt{x^2+4w^2}}}\)

③式に代入しますと、

     f6 = \(\large{\frac{V}{V-v_{\rm{s}}\cosθ}}\) f0

      = \(\large{\frac{V}{V-v_{\rm{s}}\frac{-x}{\sqrt{x^2+4w^2}}}}\) f0

      = \(\large{\frac{V\sqrt{x^2+4w^2}}{V\sqrt{x^2+4w^2}+v_{\rm{s}}x}}\) f0   ……④

この式を解釈しますと、

x が -∞ に近いときほど、相対的に 4w2 が 0 に近づき、f6

    f6 = \(\large{\frac{V\sqrt{x^2+0}}{V\sqrt{x^2+0}+v_{\rm{s}}x}}\) f0

      = \(\large{\frac{V|x|}{V|x|+v_{\rm{s}}x}}\) f0  (|x| で割りますと、x は負だから)

      = \(\large{\frac{V}{V-v_{\rm{s}}}}\) f0

に近づきます。

x が +∞ に近いときも、相対的に 4w2 が 0 に近づき、f6

    f6 = \(\large{\frac{V\sqrt{x^2+0}}{V\sqrt{x^2+0}+v_{\rm{s}}x}}\) f0

      = \(\large{\frac{V|x|}{V|x|+v_{\rm{s}}x}}\) f0  (|x| で割りますと、x は正だから)

      = \(\large{\frac{V}{V+v_{\rm{s}}}}\) f0

に近づきます。

x が 0 のときは、

    f6 = \(\large{\frac{V\sqrt{x^2+4w^2}}{V\sqrt{x^2+4w^2}-v_{\rm{s}}x}}\) f0 = \(\large{\frac{V\sqrt{0^2+4w^2}}{V\sqrt{0^2+4w^2}-v_{\rm{s}}⋅0}}\) f0 = \(\large{\frac{V\sqrt{4w^2}}{V\sqrt{4w^2}}}\) f0 = f0

です。

そして、x が -∞ 、+∞ に近いときは変化量が小さく、x が 0 に近いときは変化量が大きいです。

つまり、グラフは以下のようになります。

 

(正負がややこしい)

θ をこのように定めたということは、

このようであるということであり、

x > 0 においては cosθ は負になる たとえば cos120° = cos(180°-60°) = - cos60° ということであり、vscosθ は壁から遠ざかる方向になるということです。

このことを踏まえてあらためて④式を見てみますと、

    f6 = \(\large{\frac{V}{V-v_{\rm{s}}\cosθ}}\) f0

      = \(\large{\frac{V}{V-v_{\rm{s}}\frac{-x}{\sqrt{x^2+4w^2}}}}\) f0

      = \(\large{\frac{V\sqrt{x^2+4w^2}}{V\sqrt{x^2+4w^2}+v_{\rm{s}}x}}\) f0

x < 0 のときは cosθ > 0 で、分母の vsx の前の符号は - になり、
x > 0 のときは cosθ < 0 で、分母の vsx の前の符号は + になる、と整合性が取れていることが確認できます。

もし、x < 0 のときが cosθ > 0 で、x > 0 のときが cosθ < 0 であることが気持ち悪いというのであれば、

θ を左図のように設定すれば、x が - ∞ のときに cosθ が - 1 で、x が + ∞ のときに cosθ が + 1 になって、いい感じになります。でも問題に慣れてないとなかなか気付けません。

いずれにしても、x が - ∞ のときの振動数は

    f6 = \(\large{\frac{V}{V-v_{\rm{s}}}}\) f0

で、x が + ∞ のときの振動数は

    f6 = \(\large{\frac{V}{V+v_{\rm{s}}}}\) f0

となり、正負がややこしい中でミスを防ぐには「音源が近づいてくるときは分母が引き算、音源が遠ざかるときは分母が足し算」としっかり覚えておくことが重要です。