核反応

核反応

核反応とは

ラザフォード 1871年–1937年のニュージーランドの物理学者、アーネスト・ラザフォード。
ラザフォードの原子模型のラザフォードです。原子物理学の父といわれています。
は、1919年、α線が衝突することで窒素原子核が酸素原子核に変換されることを発見しました。原子核が人工的に変換されたのです。 放射性崩壊自然に起こります

このとき陽子が放出されます 陽子は \(\ce{^1_1H}\) と表現してもいいし \(\ce{^1_1p}\) と表現してもいいです。

核反応式で表すと以下のようになります。

$$ \ce{^14_7N + ^4_2He -> ^17_8O + ^1_1H} $$

このように、原子核に他の原子核や陽子や中性子が衝突して他の核種に変化することを核反応(あるいは原子核反応)といいます。 化学反応は電子の作用により原子と原子の結びつき方等が変わるというものです。核反応は原子の中の原子核が変わるものです。

核反応においては、質量数(核子の数)の和(上の例では14+4=17+1)と原子番号(陽子の数=電気量)の和(上の例では7+2=8+1)は一定に保たれます。 の数は変わらないということです。

また、これは質量欠損や結合エネルギーの話とは違いますし、質量を欠損してもこのときの数は変わりません。

核反応

核反応の前後で質量数(核子の数)の和、原子番号(電気量)の和は一定

核エネルギー

核種(原子核の種類)によって結合エネルギー(質量欠損)が違うのですから、原子核が変わるということは結合エネルギーも変わるということです。質量が変わるのです。核反応の前後では質量数の和、原子番号の和は変わりませんが質量が変わるのです。質量が増加するときはその分エネルギーが吸収され、質量が減少するときはその分エネルギーが放出されます。このときのエネルギーを核エネルギーといいます 運動エネルギーや放射線などのことです。
結合エネルギー(質量欠損)の差がこれらの核エネルギーになるということです。

上で挙げた例の場合、 以下の各原子核の値は書籍によってまちまちです。試験においてはこれらの値は問題文中に提示されます。

$$ \ce{^14_7N + ^4_2He -> ^17_8O + ^1_1H} $$

\(\ce{^14_7N}\)の原子核が 13.9992u、\(\ce{^4_2He}\)の原子核が 4.0015u で計 18.0007u、
\(\ce{^17_8O}\)の原子核が 16.9947u、\(\ce{^1_1H}\)の原子核が 1.0073u で計 18.0020u、
で、少し重くなってます。エネルギーを吸収したということです。

別の例を挙げますと、\(\ce{^7_3Li}\)(リチウム7)に \(\ce{^1_1H}\)(陽子)を当てると \(\ce{^4_2He}\)(ヘリウム4)が2つできるのですが、

$$ \ce{^7_3Li + ^1_1H -> ^4_2He + ^4_2He} $$

\(\ce{^7_3Li}\)の原子核 が 7.0144u、\(\ce{^1_1H}\)の原子核 が 1.0073u で計 8.0217u、
\(\ce{^4_2He}\)の原子核 が 4.0015u で計 8.0030u、
で、軽くなってます。エネルギーを放出したということです。\(\ce{^4_2He}\) に運動エネルギーを与えます。

核分裂

核分裂とは

質量数の大きい原子核の中には、中性子や放射線を吸収し、2つ(まれにそれ以上)の原子核に分裂するものがあります。このとき莫大なエネルギーが放出されます。この現象を核分裂核分裂反応)といいます。 α崩壊も原子核が2つに分裂する変化ではありますが、あまり核分裂とは言わない気がします。

核分裂をする核種としてもっとも一般的なのが \(\ce{^235_92U}\)(ウラン235)です。分裂の仕方はたくさんあります。

$$ \ce{^235_92U + ^1_0n -> ^141_56Ba + ^92_36Kr + 3^1_0n} $$

(ウラン235に中性子が当たって核分裂し、バリウム141とクリプトン92が生成され3つの中性子が放出される)

$$ \ce{^235_92U + ^1_0n -> ^103_42Mo + ^131_50Sn + 2^1_0n} $$

(ウラン235に中性子が当たって核分裂し、モリブデン103とスズ131が生成され2つの中性子が放出される)

$$ \ce{^235_92U + ^1_0n -> ^95_39Y + ^139_53I + 2^1_0n} $$

(ウラン235に中性子が当たって核分裂し、イットリウム95とヨウ素139が生成され2つの中性子が放出される)

まだ他にもあります。もちろんすべて質量数と原子番号の収支が合ってます。そしてこれらの核反応での質量差はとても大きいです。たとえば一番上の核分裂でいいますと、
\(\ce{^235_92U}\)の原子核が 235.0439u、\(\ce{^1_0n}\)が 1.0087u で計 236.0526u、
\(\ce{^141_56Ba}\)の原子核 が 140.9139u、\(\ce{^92_36Kr}\)の原子核が 91.8973u、\(\ce{^1_0n}\)が3つで 3.0261u で計 235.8373u、
で、0.2153u も軽くなってます。原子核1個でこの減少量はかなり大きいです。

核子1個当たりの結合エネルギー』で示したグラフでいいますと、核分裂というのは質量数の大きい原子核からFe原子核へ向かう方向へ反応が進みます。

連鎖反応

上で示した例では、核分裂する原子核に中性子が当たると次にまた中性子が放出されます。しかも1個に対して2個、3個放出されます。ということは核分裂性物質が大量にあれば連鎖的に増殖しながら核分裂が起こることになります。このような現象を連鎖反応といいます。原子爆弾や原子力発電の原理です。

このとき連鎖反応が増えも減りもせず、ちょうどよく継続的に起こる状態を臨界といいます。このときの核分裂性物質の量を臨界量といいます。

核融合

核融合とは

質量数の小さい原子核どうしが結合し、より大きい質量数の原子核になるとき、全体として質量が減少し、莫大なエネルギーを放出します。核融合核融合反応)といいます。

たとえば以下のような反応です。 $$ \ce{^2_1H + ^2_1H -> ^3_2He + ^1_0n} $$

重水素どうしが核融合を起こし、ヘリウム3と中性子が生成される。 ヘリウム3と中性子に3.3MeVもの運動エネルギーが与えられます

$$ \ce{^2_1H + ^3_1H -> ^4_2He + ^1_0n} $$

(重水素と三重水素が核融合を起こし、ヘリウム4と中性子が生成される。 ヘリウム4と中性子に17.6MeVもの運動エネルギーが与えられます。水素爆弾に利用されている反応です。水素爆弾の「水素」は重水素、三重水素の「水素」を指します。2011年3月の福島第一原子力発電所の水素爆発についてはこれとは別で、水素ガスが爆発したものです。原子核反応ではなく化学反応です。

もうちょっと大きい質量数の原子核でも核融合を起こせますが、超高温でなければならず人工では難しいです。重水素どうしの核融合も、原子核と原子核の斥力(陽子の電荷によるもの)に逆らって衝突させなければならず大きなエネルギーを必要とします。いまだ実現できていない核融合発電においては投入するエネルギーよりも大きなエネルギーを取り出すことが課題です。

核子1個当たりの結合エネルギー』で示したグラフでいいますと、核融合というのは質量数の小さい原子核からFe原子核へ向かう方向へ反応が進みます。Fe原子核より大きい方へ核融合が起こるのは超新星爆発の時です。

太陽内部の核融合

太陽内部は超高温、超高圧になっていて、絶えず核融合が起こっています。水素原子から電子が電離したプラズマ状態の水素原子核(要は陽子)が以下のような反応を繰り返します。 \begin{align} \ce{^1_1H + ^1_1H &-> ^2_1H + e^+ + ν\!_e} \tag{1} \label{1}\\ \\ \ce{^2_1H + ^1_1H &-> ^3_2He + γ} \tag{2} \label{2}\\ \end{align}

\(\ce{e^+}\)、\(\ce{ν\!_e}\) はそれぞれ陽電子電子ニュートリノと呼ばれるもので、陽子が中性子に転換するときに放出されます。\(\ce{γ}\) はγ線です。\eqref{1}、\eqref{2}が2組で次の反応に進みます。

\begin{align} \ce{^3_2He + ^3_2He -> ^4_2He + ^1_1H + ^1_1H} \tag{3} \label{3}\\ \end{align}

生成された \(\ce{^1_1H}\) は他の場所に移動して\eqref{1}か\eqref{2}の反応を起こします。この一連の反応を \eqref{1}の両辺に \(\ce{^1_1H}\) を足して、
$$ \ce{^1_1H + ^1_1H + ^1_1H -> ^2_1H + ^1_1H + e^+ + ν\!_e} $$ 右辺に\eqref{2}を代入して、
$$ \ce{^1_1H + ^1_1H + ^1_1H -> ^3_2He + γ + e^+ + ν\!_e} $$ 両辺を2倍して、
$$ \ce{2^1_1H + 2^1_1H + 2^1_1H -> 2^3_2He + 2γ + 2e^+ + 2ν\!_e} $$ 右辺に\eqref{3}を代入して、
$$ \ce{2^1_1H + 2^1_1H + 2^1_1H -> ^4_2He + ^1_1H + ^1_1H + 2γ + 2e^+ + 2ν\!_e} $$ ゆえに
$$ \ce{2^1_1H + 2^1_1H -> ^4_2He + 2γ + 2e^+ + 2ν\!_e} $$ つまり
$$ \ce{4^1_1H -> ^4_2He + 2e^+ + 2γ + 2ν\!_e} $$

$$ \ce{4^1_1H -> ^4_2He + 2e^+ + 2γ + 2ν\!_e} \tag{1-2-3} $$

となります。

また、陽電子 \(\ce{e^+}\) は電子 \(\ce{e^-}\) と結びついてγ線を放出します。

$$ \ce{e^+ + e^- -> 2γ} \tag{4} $$

以上のすべての反応においてエネルギーが放出されます。

\eqref{1}から\eqref{3}の連鎖反応をイラストで表すと以下のようになります。