摩擦力

摩擦力

常に逆向き

床の上に置かれた物体を動かそうとすると、それを邪魔しようとする力が働きます。

その力は物体と物体の間の接触面にはたらきます。この力を摩擦力といいます。物体が動く向きと必ず逆向きです 床や台が動かないときはあまり気にしなくていいのですが、

摩擦力というものは相対的なものです。

物体Bに対して左に動く物体Aにはたらく摩擦力は右向きです。
物体Aに対して右に動く物体Bにはたらく摩擦力は左向きです。
2つの摩擦力は、大きさが等しく、向きが逆です。作用・反作用の関係にあります。
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なお、摩擦力は空気抵抗とは別物です。

接触面の状態による

つるつるの面(たとえばスケートリンク。あるいは潤滑油が塗られた面)の上に置かれた物体は小さな力で動かすことができます。

ざらざらのあらい面(たとえばコンクリート)の上に置かれた物体は大きな力でないと動かすことができません。

押し付ける力による

床面に押し付ける力が強いほど摩擦力は強くなります。

水平の床に置かれている場合は、押し付ける力というのは、物体に掛かる重力と同じ大きさです。上から手で押さえ付けたりすれば、さらに大きくなります。

斜面の上では押し付ける力は小さくなります。

押し付ける力の向きというのは接触面に垂直です。


摩擦力の式

摩擦力の大きさは、接触面の状態押し付ける力の2つの要素で決まります。

接触面の状態がどれだけ摩擦力に影響を及ぼすかという指標が摩擦係数です。μ ギリシア文字の「ミュー」です。語源はわかりません。閉じるで表します。静止摩擦係数動摩擦係数があります。物体の素材等で決まります。鋼鉄と鋼鉄との静止摩擦係数が 0.8 くらい鋼鉄製の台の上に置いた鋼鉄製の(10Nの重力が掛かる)物体を動かすには 8N くらいの力が必要。
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で、動摩擦係数はもうちょっと小さく、潤滑油を塗った場合はさらに大幅に小さくなります。金属同士の摩擦係数は大抵 0.3~0.9 くらいですで説明しますが、摩擦係数はちょっとした条件の変化で大きく変わるので、この金属とあの金属をこすり合わせるときの数値はコレ、とはハッキリいえません。製品を製造するときなどは実験を繰り返して詳しく調べる必要があります。

また、数値が 1.0 を超えるというようなことは聞いたことがないのですが、理論上は 1.0 を超えることもあり得ます。(ちなみに、1.0 を超えるときというのは『摩擦角』が 45° を超えます。)
たとえば、境界面の形がこんなだったりしたら、摩擦係数は数百、数千という値になります。しかしこのような場合を『摩擦』と定義するのかは微妙です。

摩擦係数の値が負になることはありません。
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押し付ける力については、高校物理では、その替わりに垂直抗力を用います。N normal(垂直の)から。閉じるで表します。押し付ける力垂直抗力は、作用・反作用の関係にあり、大きさが同じで向きが逆です。実質的に同じものです。なぜ高校物理で『垂直抗力』を用いるのかはわかりません。『押し付ける力』ではフレーズが長すぎるからかもしれないし、床にはたらく力でなく物体にはたらく力に着目すべきという考えなのかもしれませんし、垂直抗力とは別の『抗力』のことを意識させたいのかもしれません。

大学物理では『荷重』とか『垂直荷重』という言葉が使われることが多いです。閉じる

摩擦力を F frictional force(摩擦による力)もしくは、ただ単に force(力)から。閉じるとしますと、μN を用いて、以下のように表せます。

摩擦力

 F = μN

摩擦力と垂直抗力と抗力

摩擦力垂直抗力足したものを抗力といいます。


なめらかな面・あらい面

高校物理では、摩擦の無い接触面をなめらかな面、摩擦のある接触面をあらい面と呼ぶことになっています。お約束です。問題文に「なめらかな面」と出てきたらそれは摩擦力を 0 とみなしなさいという意味です。

摩擦力の原理

山切りモデルによる説明

摩擦力は、物体の下面の微小な山切り型の凸凹と、床面の微小な山切り型の凸凹が引っ掛かることによって生じると考えられます。

凸凹がするどく突き出ているほど、山を乗り越えるのが大変になり、摩擦力が大きくなります。

物体が重くなるほど、山を乗り越えるのが大変になり、摩擦力が大きくなります。

接触面を拡大しますと、このようになっていますが、

床面に押し付ける力というのは、床面と平行な方向運動と無関係な方向分解できます。このときの床面と平行な方向の力摩擦力です。

山切りの角度が急になるということは摩擦係数 μ が大きくなって摩擦力が大きくなるということですし、

床面に押し付ける力(≒垂直抗力)が大きくなることによっても、摩擦力は大きくなります。


本当はこんなに単純じゃない

摩擦力の原理は本当は上記のようには単純ではありません。上記の山切りモデルはクーロン・アモントンの摩擦法則というものに基づいているのですが、

それによりますと、
直方体の物体を立てても横にしても、摩擦力は変わらなかったりします。

しかしこれは中学・高校までの物理の話で、大学物理ではこのような話は通用しません。

だいたい、山と山の間隔が合うなんてことは無いし、

境界面の形は非常に複雑で、大小の山が複雑に組み合わされていて、実際にはミクロな山と山のこすれ合いになっているはずで、いったいどの山とどの山のこすれ合いを評価すればいいのかわからないですし、

物体がたわんだりしたら、接触箇所が増えますし、

接触面にチリや水が紛れ込んだりしたら、状況が大きく変わりますし、

タイヤなどゴムでできた物体は、山が千切れたりしますし、

摩擦というものにはあまりにも多くの要因が絡んできて理屈が打ち立てにくいです。
摩擦係数が特定できるときというのは、硬くて不純物の少ない物体を入念に磨きあげたような特別な場合のみです。

この話は、「物理という学問は理屈だけでなく実験を繰り返さなければ意味が無い、社会の役に立たない」と主張する実験重視派の教育者たちの論拠になっていたりします。対して、このような主張を冷ややかに見つめる理論重視派の教育者たちは「しょせん万物は物理法則にのっとって動いていて、それが解析しきれないのは、単に連立方程式の数が数百個、数万個あるからにすぎない」と考えていたりします。
物理における摩擦は、教育におけるイデオロギー摩擦を引き起こします。
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