仕事_補足

量記号 s

仕事を表すとき、距離の量記号に s を使うことが多いのですが、この s はいったい何の頭文字なのか、諸説あります。

displacement の s。アメリカのNさんに教えていただきました。

situation の s。@willさんに教えていただきました。

space の s。Lovinさんに教えていただきました。教科書に載っているそうです。

shift の s。くむくむさんに教えていただきました。

[N・m] は2種類ある

[N・m] という単位ですが、これは力のモーメントの単位と同じです。では同じものかというと、全然違うものです。

実は、ベクトルの掛け算には2種類あって、内積と外積というものがあります。内積は2つのベクトルが同じ方向を向いているときに最大となるような掛け算で、外積は2つのベクトルが違う方向(直角の方向)を向いているときに最大となるような掛け算です。大学で詳しく教わります。

仕事の [N・m] は内積です。力 [N] と距離 [m] が同じ方向を向いているときが最も効率が良く最大となります。[J] に変換可能です。といいますか、仕事の [N・m] は必ず [J] に変換します。

力のモーメントの [N・m] は外積です。力 [N] と腕の長さ [m] が直角の方向をなすときが最も効率が良く、最大となります。[J] には変換できません。

なぜ「ゆっくり」なのか

本編で、仕事について考えるとき、「ゆっくり」動かすことが多いと述べましたが、その理由を説明します。

それは、問題を出題するときに複雑になりすぎないようにするための配慮です。

加速度が発生するほどの勢いで押したりすると、その余分な力も考慮して問題を解かなくてはいけなくなるからです。「ゆっくり」とは加速度が発生しないという意味です。加速度が発生すると、その大きさに応じた力も考慮に入れなければなりません。運動方程式 ma = F のことです。この余分な力を考慮しなくていいよう「ゆっくり」動かすのです。

しかしこれは決定的な矛盾をはらんでいます。動かすということは加速させるということですし、加速させるということは力を加えるということです。動かない(あるいは速度が変わらない)ということは、力が加わっていない(あるいは力がつり合っている)ということです。

この辺は微妙は話なのですが、高校物理で「仕事」を考える場合、物体は「ゆっくり」動かし、加速度は無いとみなすことが多いのです。ですので高校物理で仕事を考えるときは、水平方向に動かす場合だったら、摩擦力と同じ大きさの力を加え続けるとか、垂直方向に動かす場合だったら、重力と同じ大きさの力で持ち上げる、といった問題がほとんどです。

(「ゆっくり」の例外として、落下運動における重力がする仕事を考える場合がありますが、このときの加速度は g と決まっているので簡単であり、「ゆっくり」とする必要はありません。)

ですので「ゆっくり」という表現があった場合、最初の一瞬だけごくわずかに大きい力を加えて、その後はつり合った力を加え続ける、と解釈してください。

たとえば水平方向に動かす場合、最初だけごくごくわずかに摩擦力より大きい力を加えてその後は摩擦力と同じ大きさの力を加え続ける、と考えれば矛盾は少なくて済みます。いったん動き出したら、その後は摩擦力と加える力がつり合っているのだから慣性の法則によって、そのままの速さで動き続けるのです。そのときの速さはとても「ゆっくり」です。

物を持ち上げる場合でしたら、最初だけごくごくわずかに重力より大きい力を加えてその後は重力と同じ大きさの力を加え続ける、とすれば、いったん動き出したら、その後は重力と加える力がつり合っているのだから慣性の法則によって、そのままの速さで上がり続ける、と考えられます。その速さはとても「ゆっくり」です。

高校物理の試験問題でときどき見かける「ゆっくり」という言葉には、このような事情があるのだということを頭の隅に入れておいてください。

(『仕事率_補足』もご参照ください。)