図1のように、二つの滑車と伸び縮みしないひもを使い、質量 M の物体1と質量 m の物体2をつりさげた。はじめ、物体1、2は動かないように手で支えられている。静かに手を離したところ、物体1、2が運動し始めた。このときの物体1の加速度を α 、物体2の加速度を β とする。ただし、加速度は鉛直下向きを正とする。また、滑車とひもの質量は無視でき、滑車はなめらかに回転するものとする。
(問1)加速度 α と β の間に成り立つ関係として正しいものを、次の①~⑥のうちから一つ選べ。
① β = 2α ② β = α ③ 2β = α
④ β = - 2α ⑤ β = - α ⑥ 2β = - α
(問2)物体1、2の運動方程式の組み合わせとして正しいものを、次の①~④のうちから一つ選べ。ただし、ひもの張力を T とし、重力加速度の大きさを g とする。
① \(\begin{cases} Mα = Mg-2T \\ mβ = mg-T \end{cases}\) ② \(\begin{cases} Mα = mg-2T \\ mβ = Mg-T \end{cases}\)
③ \(\begin{cases} Mα = (M+m)g-T \\ mβ = (M+m)g-2T \end{cases}\) ④ \(\begin{cases} Mα = (M+m)g-2T \\ mβ = (M+m)g-T \end{cases}\)
(問3)次の文中の空欄3に入れる式として正しいものを、下の①~⑤のうちから一つ選べ。
物体1は、M > 3 のとき降下するが、M < 3 のときには上昇する。
① \(\large{\frac{m}{3}}\) ② \(\large{\frac{m}{2}}\) ③ m
④ 2m ⑤ 3m
#センター06追試
まず、
この問題は、物体1が上昇するのか降下するのか分かりません。
確実に言えるのは、物体1が上昇するときには物体2は降下し、物体1が降下するときは物体2が上昇する、ということです。
そして、問題文により鉛直下向きが正と定められているので、α と β の正負は常に逆になります。
M や m は正の値しかとりませんが、α と β は正の値も負の値もとります。
次に、
物体1が l だけ動くときに、物体2は 2l 動きます。物体1が l 上昇すると、ひもは 2l 短くなり、その 2l 分だけ物体2が降下します。
この l は正の値しかとりません。
(問1)
物体1が時間 t の間に l だけ動いたとしますと、等加速度直線運動の変位の関係( x = v0t + \(\large{\frac{1}{2}}\)at2 )より、
物体1 : - l = \(\large{\frac{1}{2}}\)αt2 ……➊
物体2 : 2l = \(\large{\frac{1}{2}}\)βt2 ……➋
➊式の両辺を2倍して、➊式、➋式の辺々を足しますと、
- 2 l + 2l = \(\large{\frac{2}{2}}\)αt2 + \(\large{\frac{1}{2}}\)βt2
∴ 0 = \(\large{\frac{2}{2}}\)αt2 + \(\large{\frac{1}{2}}\)βt2
∴ 0 = α + \(\large{\frac{1}{2}}\)β
∴ β = - 2α
となります。答えは ④ です。
(余談)
➊式は
物体1 : l = \(\large{\frac{1}{2}}\)αt2 ……➊'
と立てることもできます。そのときは➋式は
物体2 : - 2l = \(\large{\frac{1}{2}}\)βt2 ……➋'
となります。どっちみち同じことです。
また、等加速度直線運動の速度の関係( v = at )より、
物体1 : v1 = αt
物体2 : v2 = βt = - 2αt = - 2v1
(ただし v1、v2 は正の値も負の値もとるものとする)
であり、つまり、
物体2は物体1と比べて、加速度の大きさも、速度の大きさも、変位の大きさも全て2倍、となっています。(向きは全て逆です)。この手の問題のパターンです。頭に入れておいてください。
(問2)物体1、2の運動方程式の組み合わせとして正しいものを、次の①~④のうちから一つ選べ。ただし、ひもの張力を T とし、重力加速度の大きさを g とする。
① \(\begin{cases} Mα = Mg-2T \\ mβ = mg-T \end{cases}\) ② \(\begin{cases} Mα = mg-2T \\ mβ = Mg-T \end{cases}\)
③ \(\begin{cases} Mα = (M+m)g-T \\ mβ = (M+m)g-2T \end{cases}\) ④ \(\begin{cases} Mα = (M+m)g-2T \\ mβ = (M+m)g-T \end{cases}\)
各物体にはたらく力を描くと左図のようになります。張力 T はどの地点でも同じ大きさです。あと、正の値しかとりません。
張力を全て描けば下図のようになりますが、
今は、物体に掛かる力について考えています。
正負に気をつけながら運動方程式を立てますと、
物体1 : Mα = Mg - 2T ……❸
物体2 : mβ = mg - T ……❹
となります。答えは ① です。
(問3)次の文中の空欄 3 に入れる式として正しいものを、下の①~⑤のうちから一つ選べ。
物体1は、M > 3 のとき降下するが、M < 3 のときには上昇する。
① \(\large{\frac{m}{3}}\) ② \(\large{\frac{m}{2}}\) ③ m
④ 2m ⑤ 3m
物体1の加速度 α を求めます。
問1の結果 β = - 2α を❹式に代入しますと、
- 2mα = mg - T
これを2倍しますと、
- 4mα = 2mg - 2T
この式と❸式の辺々を引いて T を消去しますと、
Mα - (- 4mα) = Mg - 2T - (2mg - 2T)
∴ Mα + 4mα = Mg - 2mg
∴ α = \(\large{\frac{M-2m}{M+4m}}\)g
となります。右辺の分母は常に正です。分子は正かもしれませんし負かもしれません。
物体1が降下するときというのは α > 0 のときであり M - 2m > 0 のときです。つまり M > 2m のときです。
物体1が上昇するときというのは α < 0 のときであり M - 2m < 0 のときです。つまり M < 2m のときです。
答えは ④ です。
(余談)
M が m の倍より重ければ物体1は降下し、倍より軽ければ上昇します。
M が m のちょうど倍のときは、α = 0 、β = 0 であり、これはつまり、力がつり合って全てが静止するということです。
この問題の装置はテコの原理を発揮しているといえます。