図2のように、あらい水平な床の上の点Oに質量 m の小物体が静止している。この小物体に、床と角度 θ をなす矢印の向きに一定の大きさ F の力を加えて、点Oから距離 l にある点Pまで床に沿って移動させた。小物体が点Pに達した直後に力を加えることをやめたところ、小物体は l' だけすべって点Qで静止した。ただし、小物体と床の間の動摩擦係数を μ' 、重力加速度の大きさを g とする。
(問4)点Oから点Pまで動く間に、小物体が床から受ける動摩擦力の大きさ f を式で表わせ。
(問5)小物体が点Pに到達したときの速さを f を用いて表す式として正しいものを、次の①~⑥のうちから一つ選べ。
① \(\sqrt{\large{\frac{2l(F+f)}{m}}}\) ② \(\sqrt{\large{\frac{2l(F\sinθ+f)}{m}}}\)
③ \(\sqrt{\large{\frac{2l(F\cosθ+f)}{m}}}\) ④ \(\sqrt{\large{\frac{2l(F-f)}{m}}}\)
⑤ \(\sqrt{\large{\frac{2l(F\sinθ-f)}{m}}}\) ⑥ \(\sqrt{\large{\frac{2l(F\cosθ-f)}{m}}}\)
(問6)小物体が動き始めてから点Qに到達するまで、点Oと小物体との距離を時間の関数として表したグラフとして最も適当なものを、次の①~⑥のうちから一つ選べ。
#センター13本試
(問4)
小物体にはたらいている力は F と重力 mg の2つです。F の鉛直成分は Fsinθ です。よって、小物体にはたらく垂直抗力の大きさは
mg - Fsinθ
であり、
動摩擦力の大きさは動摩擦係数と垂直抗力を掛けたものだから、
f = μ'(mg - Fsinθ)
(問5)
小物体にはたらく水平方向の力は、Fcosθ と動摩擦力 f の2つです。Fcosθ は題意より一定です。動摩擦力というものも例え速さが変わっても一定です。それが動摩擦力の特徴です。つまり小物体にはたらく力は点Oから点Pまで一定です。
小物体の加速度を a と置いて運動方程式を立てますと、
ma = Fcosθ - f
∴ a = \(\large{\frac{F\cosθ-f}{m}}\)
力が一定なのですから加速度も一定です。等加速度直線運動の時間を含まない式(v2 - v02 = 2ax)を立てますと、
v2 - 02 = 2⋅\(\large{\frac{F\cosθ-f}{m}}\)⋅l
∴ v = \(\sqrt{\large{\frac{2l(F\cosθ-f)}{m}}}\)
よって答えは ⑥ です。
(別解:エネルギーの式を立てて v を求める)
もし摩擦が無いとすると、Fcosθ で引っ張った労力はすべて小物体の加速に使われます。小物体の速さが 0 から v に変化したとすると運動エネルギーは 0 から \(\large{\frac{1}{2}}\)mv2 に増えるわけですが、これは Fcosθ が距離 l の間はたらいて、小物体のエネルギーが \(\large{\frac{1}{2}}\)mv2 だけ増えた、ということです。
=
\(\large{\frac{1}{2}}\)mv2 = Fcosθ × l
しかし今は摩擦があるので、引っ張った労力は運動エネルギーの増加の他に摩擦熱にも使われます。この摩擦熱の大きさは摩擦力がした仕事の量であり、f × l です。(qGAR4、qG7FA、『あらい水平面を進む物体』参照)
=
\(\large{\frac{1}{2}}\)mv2 + f × l = Fcosθ × l
∴ \(\large{\frac{1}{2}}\)mv2 = Fcosθ × l - f × l
∴ v2 = \(\large{\frac{2}{m}}\)l(Fcosθ - f)
∴ v = \(\sqrt{\large{\frac{2l(F\cosθ-f)}{m}}}\)
(別解:選択肢には無いが l' を用いて表現してみる)
PQ間の運動におけるエネルギーの式を立てると 運動エネルギーの減少分 = 摩擦力がした仕事 であるから、
\(\large{\frac{1}{2}}\)mv2 = f × l'
∴ v2 = \(\large{\frac{2fl'}{m}}\)
∴ v = \(\sqrt{\large{\frac{2fl'}{m}}}\)
と表現できます。
これを上の v の式と合わせれば
\(\large{\frac{2fl'}{m}}\) = \(\large{\frac{2}{m}}\)l(Fcosθ - f)
∴ l' = \(\large{\frac{l(F\cosθ-f)}{f}}\)
と、l' の長さが求まります。
(問6)
点Pまでは引っ張る力と動摩擦力の合力がはたらき、点Qまでは動摩擦力がはたらきます。
もうちょと厳密に言うと、点Pまでは等加速度直線運動で、点Qまでも等加速度直線運動で、点Pまでの加速度は正で、点Qまでの加速度は負です。
式を用いて言うと、
点Oから点Pまでは
x = \(\large{\frac{1}{2}}\)at2
と表現でき、これは x-tグラフにおいて下に凸の放物線であり、
点Pから点Qは
x' = vt' - \(\large{\frac{1}{2}}\)a't'2
と表現でき、これは x-tグラフにおいて上に凸の放物線であります。
というわけで答えは ③ です。