qH7D5

 なめらかに動くピストンを持つ容器内に、1モルの単原子分子理想気体が封入されている。この気体の状態を、図1に示す圧力-体積図(p-V図)のように変化させる熱機関を考える。AからDの4つの状態間における変化は次のようになっている。

  A→B:断熱変化、B→C:定庄変化、C→D:断熱変化、D→A:定積変化

状態A、B、Cの体積をそれぞれ VAVB 、2VB 、状態A、B、Dの温度をそれぞれ TATBTD とする。また、断熱変化では pVγ = 一定(γは定圧モル比熱を定積モル比熱で割った値)が成り立っている。この熱機関を1サイクル運転させる。 問1〜5に答えなさい。解答の導出過程も示しなさい。ただし、気体定数を R とし、ピストンの質量は無視してよい。

図 1

(問1)AからDの4つの状態における気体の内部エネルギー UAUBUCUDTATBTD を用いて表しなさい。

(問2)4つの状態間における変化のうち、気体が外部から熱量 Q1 を受け取る変化と、外部に熱量 Q2 を放出する変化がある。それぞれがどの状態間における変化に対応しているか答えなさい。さらに、 Q1Q2TATBTD を用いて表しなさい。ただし、Q1Q2 を正とする。

(問3)気体が外部にする正味の仕事 WTATBTD を用いて表しなさい。

(問4)TATDTBVAVB を用いて表しなさい。

(問5)熱効率 eVAVB を用いて温度を含まない形で表しなさい。

#神戸大15

(問1)
状態Cの温度が問題文で与えられてませんが、その温度を TC と置いて、B→Cの変化におけるシャルルの法則の式を立てて求めますと、

    \(\large{\frac{V_\rm{B}}{T_\rm{B}}}\) = \(\large{\frac{V_\rm{C}}{T_\rm{C}}}\)

 ∴  \(\large{\frac{V_\rm{B}}{T_\rm{B}}}\) = \(\large{\frac{2V_\rm{B}}{T_\rm{C}}}\)

 ∴  \(\large{\frac{1}{T_\rm{B}}}\) = \(\large{\frac{2}{T_\rm{C}}}\)

 ∴  TC = 2TB

よって、各内部エネルギーU = \(\large{\frac{3}{2}}\)nRT)は

     UA = \(\large{\frac{3}{2}}\)⋅1⋅RTA = \(\large{\frac{3}{2}}\)RTA

     UB = \(\large{\frac{3}{2}}\)RTB

     UC = \(\large{\frac{3}{2}}\)RTC = \(\large{\frac{3}{2}}\)R⋅2TB = 3RTB

     UD = \(\large{\frac{3}{2}}\)RTD

 

 

(問2)
気体の状態変化には以下の4種類があります。

定積変化はピストンを固定しながらシリンダーを加熱、冷却するような状態変化であり、加熱すると温度と圧力が上がり、冷却する(熱を放出する)と温度と圧力が下がります。D→Aの変化では熱を放出して圧力が下がっています。

定圧変化はピストンを自由に動けるようにして加熱、冷却するような状態変化であり、加熱すると温度と体積が大きくなり、冷却する(熱を放出する)と温度と体積が小さくなります。B→Cの変化では加熱され温度と体積が大きくなっています。

等温変化は温度を一定に保ったままピストンを動かすような状態変化であり、本問には該当しません。

断熱変化は熱を出入りさせずにピストンを動かすような状態変化です。A→B、C→Dの変化です。

というわけで、

  熱量 Q1 を受け取る変化: B→C

  熱量 Q2 を放出する変化: D→A

そして、単原子分子の理想気体の定圧モル比熱は(C =) \(\large{\frac{5}{2}}\)R であり、 B→Cの変化で受け取る熱量Q = nCΔT)は

     Q1 = 1⋅\(\large{\frac{5}{2}}\)R⋅(TC - TB) = \(\large{\frac{5}{2}}\)R⋅(2TB - TB) = \(\large{\frac{5}{2}}\)RTB

また、単原子分子の理想気体の定積モル比熱は(C =) \(\large{\frac{3}{2}}\)R であり、 D→Aの変化で放出する熱量(Q = nCΔT)は
Q2 が正になるように気を付けて)

     Q2 = 1⋅\(\large{\frac{3}{2}}\)R⋅(TD - TA) = \(\large{\frac{3}{2}}\)R(TD - TA)   あるいは
Q2 = - 1⋅\(\large{\frac{3}{2}}\)R⋅(TA - TD)
と立式してもいいです。

(念のため)
TD > TA であることはお分かりでしょうか。
p-Vグラフにおいて原点から遠い方が温度は高いです。

 

 

(問3)
本問のサイクルにおいてピストン内の分子の数が増減することもないし、温度は最初の温度に戻るので、この気体の内部エネルギーに変化はありません(ΔU = 0)。ということは熱力学第1法則の式 Q = ΔU + W は Q = W となります。すなわち、気体がする仕事というのは気体が得た熱量ということです。つまり、

     W = Q1 - Q2

     = \(\large{\frac{5}{2}}\)RTB - \(\large{\frac{3}{2}}\)R(TD - TA)

     = \(\large{\frac{5}{2}}\)RTB - \(\large{\frac{3}{2}}\)RTD + \(\large{\frac{3}{2}}\)TA

     = \(\large{\frac{R}{2}}\)(5TB - 3TD + 3TA)

     = \(\large{\frac{R}{2}}\)(3TA + 5TB - 3TD)

 

(余談:これを各状態変化ごとに細かく見ていくと)

(A→B:断熱変化)断熱変化Q = 0)では Q = ΔU + W は 0 = ΔU + W であり気体の状態変化』項と本問では W正負の定義が逆です。
本問では
  ΔU = Q + W
ではなく
  Q = ΔU + W
です。
、つまり、

    0 = ΔUAB + WAB

 ∴  WAB = - ΔUAB

       = - (UB - UA)

       = - \(\large{\frac{3}{2}}\)RTB + \(\large{\frac{3}{2}}\)RTA  ……➊

(B→C:定庄変化)定庄変化では Q = ΔU + W であり、つまり、

    Q1 = ΔUBC + WBC

 ∴  WBC = Q1 - ΔUBC

       = Q1 - (UC - UB)

       = Q1 - 3RTB + \(\large{\frac{3}{2}}\)RTB  ……➋

(C→D:断熱変化)断熱変化(Q = 0)では Q = ΔU + W は 0 = ΔU + W であり、つまり、

    0 = ΔUCD + WCD

 ∴  WCD = - ΔUCD

       = - (UD - UC)

       = - \(\large{\frac{3}{2}}\)RTD + 3RTB  ……❸

(D→A:定積変化)定積変化W = 0)では、

    WDA = 0  ……❹

➊、➋、❸、❹より、

    W = WAB + WBC + WCD + WDA

      = - \(\large{\frac{3}{2}}\)RTB + \(\large{\frac{3}{2}}\)RTA + Q1 - 3RTB + \(\large{\frac{3}{2}}\)RTB - \(\large{\frac{3}{2}}\)RTD + 3RTB + 0

      = \(\large{\frac{3}{2}}\)RTA + Q1 - \(\large{\frac{3}{2}}\)RTD  問2の結果を代入して

      = \(\large{\frac{3}{2}}\)RTA + \(\large{\frac{5}{2}}\)RTB - \(\large{\frac{3}{2}}\)RTD

      = \(\large{\frac{R}{2}}\)(3TA + 5TB - 3TD)

と、同じ結果が得られます。

なお、この値は

左図の青色部分の面積となっています。

 

 

(問4)

pV の関係式を TV の関係式に変形する)
問題文にある pVγ = 一定 というのはポアソンの法則のことですが、これを定数 k を用いて表現すると、

    pVγ = k

となり、さらに、ボイル⋅シャルルの法則を定数 k' を用いて表現すると、

    \(\large{\frac{pV}{T}}\) = k'

となり、この2式の辺々を割りますと、

    \(\large{\frac{pV^γ}{\frac{pV}{T}}}\) = \(\large{\frac{k}{k'}}\)

    \(\large{\frac{V^γ}{\frac{V}{T}}}\) = \(\large{\frac{k}{k'}}\)

 ∴  TVγ-1 = \(\large{\frac{k}{k'}}\)

これはつまり、 TVγ-1 = 一定 ということです。

 

TATDTBVAVB を用いて表す)
上記の関係式をA→Bの断熱変化に適用しますと、 ポアソンの法則は断熱変化において成り立つものです。

    TAVAγ-1 = TBVBγ-1

 ∴   TA = \(\large{(\frac{V_\rm{B}}{V_\rm{A}}})^{\small{γ-1}}\)TB

C→Dの断熱変化に適用しますと、

    TCVCγ-1 = TDVDγ-1

 ∴  2TB(2VB)γ-1 = TDVAγ-1   問1より TC = 2TB であり、
問題文より VC = 2VB であり、
D→Aは定積変化であるから VD = VA であり、
これらを代入します。

 ∴   TD = 2×2γ-1×TB×\(\large{(\frac{V_\rm{B}}{V_\rm{A}}})^{\small{γ-1}}\)

      = 2γ\(\large{(\frac{V_\rm{B}}{V_\rm{A}}})^{\small{γ-1}}\)TB

 

γ を用いていいかどうか問題文に書いてませんが、おそらく使っていいはずです)

 

 

(問5)
熱効率e = \(\large{\frac{W}{Q_1}}\) = \(\large{\frac{Q_1-Q_2}{Q_1}}\) )は、問2、問3の値を用いて、

     e = \(\large{\frac{\frac{R}{2}(3T_{\rm{A}}+5T_{\rm{B}}-3T_\rm{D})}{\frac{5}{2}RT_\rm{B}}}\)

     = \(\large{\frac{3T_{\rm{A}}+5T_{\rm{B}}-3T_\rm{D}}{5T_\rm{B}}}\)

     = \(\large{\frac{5T_{\rm{B}}-3T_{\rm{D}}+3T_\rm{A}}{5T_\rm{B}}}\)

     = 1 - \(\large{\frac{3(T_{\rm{D}}-T_\rm{A})}{5T_\rm{B}}}\)  問4の値を代入すると TB が消去でき

     = 1 - \(\large{\frac{3\Big\{2^γ(\frac{V_\rm{B}}{V_\rm{A}})^{\small{γ-1}}-(\frac{V_\rm{B}}{V_\rm{A}})^{\small{γ-1}}\Big\}T_\rm{B}}{5T_\rm{B}}}\)

     = 1 - \(\large{\frac{3\Big\{2^γ(\frac{V_\rm{B}}{V_\rm{A}})^{\small{γ-1}}-(\frac{V_\rm{B}}{V_\rm{A}})^{\small{γ-1}}\Big\}}{5}}\)

     = 1 - \(\large{\frac{3(2^γ-1)}{5}\big(\frac{V_\rm{B}}{V_\rm{A}}}\big)^{\small{γ-1}}\)