いろいろなエネルギー
エネルギーには力学的エネルギーや電気的なエネルギーや熱力学的なエネルギーなど様々な形態がありますが、その他にも以下のようなものがあります。
化学エネルギー
火力発電所は石油や石炭を燃やすこと(化学反応)によって熱エネルギーを取り出し、蒸気でタービンを回して電気エネルギーに換え、各家庭に電気を供給しています。電池は内部で化学反応を起こして電気エネルギーを取り出すものです。火薬を爆発させると、化学エネルギーが力学的エネルギーや音(音波)エネルギーに変換されます。
波のエネルギー
照明は電気エネルギーを光エネルギー(光は電磁波、つまり波です)に換え、太陽電池は光エネルギーを電気エネルギーに換え、スピーカーは電気エネルギーを音波エネルギーに換えます。植物の光合成は光エネルギーを化学エネルギーに変換し炭水化物を合成するものです。
核エネルギー
原子力発電所は原子核の核エネルギーを熱エネルギーに換え、蒸気でタービンを回して電気エネルギーを得ています。太陽の光は、太陽において核融合反応が起きて、それが光(電磁波)として地球に届いたものです。
その他
その他のエネルギーの例を挙げますと、水力発電は水の位置エネルギーを電気エネルギーに換えるものですし、風力発電は風のエネルギー(空気の運動エネルギー)を電気エネルギーに換えるものです。
エネルギーの変換を媒介するもの
エネルギー保存の法則
上図のようにエネルギーはいろいろな形に変換されます。しかし、変換前のエネルギーの総量と変換後のエネルギーの総量は変化しません。これをエネルギー保存の法則といいます。物理学で最も基本的な法則です。
『力学的エネルギー保存の法則』は、エネルギー保存の法則の力学バージョンで*『エネルギーの原理』なるものもありました。『力学的エネルギーが保存されない運動』の『法則の整理』もご参照ください。
閉じる、
『熱量の保存』は、エネルギー保存の法則の熱力学バージョンで、
『熱力学第1法則』は、エネルギー保存の法則の力学と熱力学の両方を合わせたバージョンです。
可逆変化と不可逆変化
エネルギーの変換には、元の状態に戻ることができる場合と、戻ることができない場合とがあります。
可逆変化
空気抵抗の無い真空中で、(支点に摩擦の無い)振り子を振ると、おもりは元の位置に戻ってきます。このように元の状態に戻ることができる変化を可逆変化(可逆過程)といいます。可逆変化は力学的エネルギー保存の法則が成り立つときだけみられる現象です。しかし厳密にいうと現実世界には必ず摩擦があるので、可逆変化は理想世界の観念的な話です。
不可逆変化
温度の違う2つの物体を接触させておくと、やがて熱平衡状態になって同じ温度になります。しかし、そのまま熱平衡にある2つの物体を接触させておいて時間が経ったとしても2つの物体が違う温度になることはありません。違う温度にするには人為的に手を加えなければなりません。このように自然に元に戻ることのない変化を不可逆変化(不可逆過程)といいます。特に、熱の移動を伴う変化はすべて不可逆変化です。
不可逆変化の例
- 摩擦のある床面の上で物体を滑らせると徐々にスピードが落ちていき、床面は摩擦熱によって熱くなる。(物体に熱を加えてもスピードは元に戻らない。)
- (真空中ではなく)空気中で振り子を振ると、空気抵抗によって徐々にスピードが落ちていく。(何もしなければそのまま止まり、再び動き出すことはない。)
- インクを水中に垂らすと拡散する。(拡散したインクが再び一箇所に集まることは無い。)
熱力学第2法則
上で述べたように、熱が低温物体から高温物体に移動することはありません。これを熱力学第2法則といいます。
夏になるとクーラーを使いますが、これは涼しい室内から熱を取ってさらに涼しくし、取った熱を暑い室外に排出する装置です。一見、低温物体から高温物体に熱が移動したように思えますが、そこにはクーラーを稼働させた電気エネルギーの存在があります。電気の力が介在しているのです。ですので、熱力学第2法則をもう少し厳密にいうと、「まわりに何の変化も起こさずに、低温物体から高温物体に熱を移動させることはできない*『クラウジウスの表現』あるいは『クラウジウスの原理』といいます。
閉じる」となります。
さらにこれを別のいい方で表現しますと、「まわりに何の変化も起こさずに、熱をすべて仕事に換えることはできない*『トムソンの表現』あるいは『トムソンの原理』といいます。
閉じる」となります。熱は移動するときに必ず低い方へ流れるので、熱→仕事→熱→仕事→熱、と変換していくうちにどんどん低い方へ流れて行き、決して水平をキープできないのです。熱を100%仕事に変換することはできないのです。
このことを具体的に表現すると熱力学第2法則は、「第2種永久機関(下で説明)は存在しない*『オストヴァルトの表現』あるいは『オストヴァルトの原理』といいます。
閉じる」ともいえます。
熱機関
熱を仕事に換える装置を熱機関といいます。自動車のエンジンや発電所の蒸気タービンのことです。
熱機関では高温熱源から熱を受け取り、一部を仕事に変換し、残りの熱を低温熱源に放出します。
自動車のエンジンでいうと、まず、ガソリンを燃焼(高温熱源)し、気体を膨張させ、ピストンを押し、クランク軸を回転(仕事)させて、排気ガスを大気中(低温熱源)に放出します。
高温熱源から受け取った熱量を Q1 [J] 、低温熱源に放出した熱量を Q2 [J] とすると、熱機関が外部にした仕事 W [J] は、
W = Q1 - Q2
となります。
このとき、高温熱源から得られた熱量をどのくらい仕事に換えられたかという割合を熱効率(熱機関の効率)といいます。e で表します*efficiency(効率)から。閉じる。
上で説明した熱力学第2法則により、e は 1 にはなりません。
0 にもなりません。熱量の保存は Q1 = Q2 を表していますがこれは仕事をしないときの話です。
つまり、e は必ず 0 < e < 1 です。
e は百分率で表すことも多いです。蒸気機関で10%くらい、ガソリンエンジンで30%くらいです。
*
熱効率において熱力学第1法則の式の ⊿U が考慮されていませんが、これは熱効率というものが熱機関を永続的に運転したときの効率のことを指しているからです。
熱機関を1回転だけさせた場合は内部の温度上昇(⊿U)を考慮すべきですが、この ⊿U はいずれ外部に放出されるものであり、永続的に運転されている場合は Q2 に含まれます。
エンジンの熱効率を調べるときは、スタート時とストップ時のことは考えず、スタートしてしばらくしてエンジンの温度が一定になってから測定し始め、温度が下がる前に測定を終了します。
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永久機関
第1種永久機関
外部からエネルギーを得ずに、外部に仕事をし続ける機関を第1種永久機関といいます。もちろんこのような機関は存在しません。上で説明したエネルギー保存の法則(熱力学第1法則)に反します。
第2種永久機関
1つの熱源から熱を取り、すべて仕事に変換する機関を第2種永久機関といいます。熱効率100%の機関です。これももちろん存在しません。上で説明した熱力学第2法則に反します。
騙されないで
第1種永久機関の存在を主張する人はさすがにいませんが、第2種永久機関の存在を主張する人はときどきいます。「世紀の発明!」とか「熱力学第2法則を超越する法則を発見!」などという人です。残念ながら物理的にあり得ません。典型的な科学詐欺です。