誘電分極

誘電分極

不導体

電気をあまり通さない(自由電子の少ない)物質を不導体絶縁体)といいます。ゴムやガラスや紙や磁器や木や空気などのことですどちらともいいにくい物質もあります。空気は不導体ともみなせますし、導体ともみなせます。普段は電気を通しませんが、高い電圧をかけると放電します(雷)。水道水は導体ですが、完全に不純物を取り除いた純粋は不導体です。
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導体の逆です。自由電子がほとんどありません。

不導体は自由電子がほとんど無いので静電誘導が起こりません。しかしよく似た現象が起こります。

誘電分極

電場の中に不導体を置くと、個々の原子(あるいは分子)の中の電子(負電荷)が静電気力を受けて電場と逆の方向へ引き寄せられます。しかしこの電子は自由電子ではないので原子の外には飛び出せません。(左の原子のイラストの青い三日月部分が負電荷、赤い三日月部分が正電荷を表しています。静電誘導における自由電子の動きとはだいぶ違います静電誘導における自由電子の動き

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。これにより個々の原子は、電場の方向と逆側の電荷は負に偏り、電場の方向の側の電荷は正に偏りますこれを電子分極といいます。でもこの言葉は高校生はまだ覚える必要はありません。
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。これを分極といいます。後に学ぶ誘電率というのは分極の度合いを示す量です。

分極を起こすメカニズムは他にもあります。分子が始めから偏った電荷を持っている場合です。水分子などがそうです。始めは分子がランダムな方向に向いていて全体としては電荷の偏りが無いのですが、電場が掛かると一斉に同じ方向を向き、全体として電荷の偏りが発生しますこれを配向分極といいます。分極の種類はまだ他にもあります。
分極の種類の名前は高校生は覚える必要はありません。
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不導体内の個々の原子(あるいは分子)がすべてきれいに偏ると、隣同士の原子(分子)の電荷は打ち消し合います(打ち消し合うといいますか、正と負のペアができます)。

結局、残る電荷は不導体の表面に存在する電荷だけになります。一番外側の電荷はペアを組む相手がいないからです。

このように、分極によって不導体全体の電荷が偏ることを誘電分極といいます。

負の電荷の個数と正の電荷の個数は同じです。

誘電分極を起こす物質を誘電体といいます。不導体(絶縁体)と誘電体はほぼ同じ意味(厳密には少し違うらしい)です。不導体=絶縁体≒誘電体 です。


電場を少しだけ打ち消す

電場の中に置かれ、誘電分極を起こした誘電体(≒不導体=絶縁体)の内部には、外部と逆向きの電場が発生します。誘電体表面に残った電荷たちが作る電場です。

この電場が外部の電場を少し打ち消します。『電場の中の導体』との違いを認識してください。

なぜ「少し」だけかといいますと、それは表面に存在する原子(あるいは分子)しか内部の電場の形成に貢献しないからです。

左のイラストの場合ですと、5個分の負電荷しか発生しません。

これがもし静電誘導であれば、最大25個分の負電荷が発生します。静電誘導のときは各原子の中の自由電子が自由に移動することによって電荷の偏りが作られるので、作られる個数の桁が違います。電場が 0 になるまで自由電子が移動します。


電場、電位のグラフ

一様な電場の中に置かれた誘電体(≒不導体=絶縁体)について、

縦軸を電場とするグラフを描きますと、左図のようになります。誘電体の部分の電場は 0 にはなりません。これが導体(静電誘導)の場合と大きく違うところです。(誘電率の大きな物体にごく僅かな電場しか掛けなければ内部の電場をなんとか 0 にできるかもしれませんが、一般的には誘電体の場合は内部の電場は 0 になりません。)

縦軸を電位とするグラフを描きますと、左図のようになります。電位のグラフの曲線の傾きが上の電場になります。導体(静電誘導)の場合と違って誘電体の部分の傾きが 0 ではありません。上で説明したように「少し」だけしか打ち消さないからです。


静電誘導と誘電分極の整理

静電誘導と誘電分極は紛らわしいので整理しておきます。

物体の種類 起こる現象 原理 イメージアニメ 内部の電場
導体 静電誘導 自由電子が動く 0 になる
不導体(=絶縁体≒誘電体) 誘電分極 分極する あるいは 小さくはなるが 0 にはならない