運動エネルギー

運動エネルギー

運動している物体は何か他の物体に当たると、その物体を動かしたり変形させたりします。また、エネルギーとは「物体が持っている、仕事をする能力」であると、説明しました。だとすると、運動している物体はそれだけでエネルギーを持っていることになります。運動している物体が何か他の物体に当たったときに、動かしたり変形させたりすることができるからです。この運動している物体の持つエネルギーを運動エネルギーといいます。

直観的にいうと、運動の速さが速いほど他の物体への影響は大きそうです。また、物体の質量が大きければ大きいほど影響が大きそうです。運動エネルギーは、物体の速さや質量の大きさに関係ありそうだということが予想されます。

では実際に運動エネルギーの大きさを定義するには、どのように考えたらいいでしょうか。それは、運動している物体が他の物体に仕事をして、そのエネルギーを使い切るまでの仕事の量、とするのが妥当です。運動エネルギーを持った物体が他の物体にぶつかって止まったたときの、ぶつかる瞬間から止まる瞬間までの仕事の大きさです。この仕事の大きさを運動エネルギーの大きさとするのが妥当です。

左図は、粘土の塊にピストルで弾を撃ち込む場面です。弾が速いほど、弾が重いほど、その分、深くめり込みます。この弾の運動エネルギーを考えてみます。

弾の質量を m [kg]、弾の速さを v [m/s]、弾は s [m] 進んで止まり、減速するときの加速度は a [m/s2] で一定、弾が粘土を押す力は F [N] で一定、右向きが正、であるとします。

弾が粘土から受ける力は作用・反作用の法則より - F であり、弾の運動方程式を立てますと、

    ma = - F

弾が減速していくときの運動は等加速度直線運動であり、等加速度直線運動の3式のうちの時間を含まない式を立てますと、

    02 - v2 = 2as

 ∴  - v2 = 2as

 ∴  as = - \(\large{\frac{1}{2}}\)v2

仕事 W は、

    W = Fs = - mas = - mas = - m(- \(\large{\frac{1}{2}}\)v2) = \(\large{\frac{1}{2}}\)mv2

であり、これが運動エネルギーです。

運動エネルギー

 K = \(\large{\frac{1}{2}}\)mv2

単位は仕事と同じく [J] です。量記号は W ではなく K を使うことが多いですkinetic(運動の) から。
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この式を解釈しますと、運動エネルギーは質量に比例し速さの2乗に比例する、といえます。ざっくりといえば、質量を持っているものは、動いていさえいればエネルギーを持っている、といえます。

なお今までは、物体が力を受けて移動したときに、そのとき受けた力と移動距離を掛け合わせて仕事の大きさを割り出しましたが、今回の粘土の場合は移動ではなく変形です。このような場合も仕事をされた、といいますが、その仕事の量は測定が困難です。しかし、ピストルの弾が与えた仕事については、力と移動距離がわかっているので測定できます。そして、粘土の受けた仕事の量と弾が与えた仕事の量は同じはずです。弾以外に仕事をしたものはいないのですから。

(『摩擦熱』の『運動エネルギー』もご参照ください。)

エネルギーの原理

次に、動いている物体のスピードをUPさせた場合の、仕事と運動エネルギーの関係を考えてみます。

始め v0 [m/s] で運動していた台車を、A地点からB地点までの間、手で力を加えることによって v [m/s] まで加速した場合を考えます。

台車の質量を m [kg]、加えた力は F [N]で一定、そのときの加速度は a [m/s2] で一定、A地点からB地点までの距離を s [m]、右向きが正、であるとします。

台車の運動方程式を立てますと、

    ma = F

(台車を減速させる場合でしたら、- ma = F

A地点からB地点まで台車は等加速度直線運動するから、

    v2 - v02 = 2as

 ∴  as = \(\large{\frac{1}{2}}\)(v2 - v02)

手が台車にした仕事 W は、

    W = Fs = mas = mas = m{\(\large{\frac{1}{2}}\)(v2 - v02)} = \(\large{\frac{1}{2}}\)mv2 - \(\large{\frac{1}{2}}\)mv02

上式の右辺第1項は加速後の台車の運動エネルギーとなっていて、第2項は加速前の台車の運動エネルギーとなっています。つまり、右辺は台車の運動エネルギーの変化を表しています。よって、台車の運動エネルギーの変化は台車にされた仕事に等しい、ということがいえます。このことをエネルギーの原理といいます。かいつまんでいうと、仕事をされるとその分、エネルギーが増える、ということです。エネルギー保存の法則の一種です。

エネルギーの原理

物体の運動エネルギーの変化は物体にされた仕事に等しい

 \(\large{\frac{1}{2}}\)mv2 - \(\large{\frac{1}{2}}\)mv02 = W

上の台車の例では上式の両辺は正でした。しかしたとえば、台車の速さを下げるように力を加えた場合、つまり - ma = Fv < v0 であるような場合、上式の両辺は負となります。負の仕事をされると運動エネルギーが下がるのです。しかしこれは別のいい方をすると、台車が手に対し仕事をし、台車の運動エネルギーが下がった、ということもできます。止まり続けようとしている手に対し、走ってきた台車が当たり、手を移動させ、台車の運動エネルギーが下がったのです。台車が手に仕事をしたのです。

AがBに負の仕事をした、というのと、BがAに仕事をした、というのはイコールです。(補足ページもご参照ください。)