qH7D1

 磁場中に置かれた電気回路に関する次の文章を読んで、問1〜5に答えなさい。問1〜4では解答の導出過程も示しなさい。図1と図2で示すように十分に長い平行な2本の導体でできた間隔 d の固定されたレールがあり、電気抵抗をもつ棒がレールに垂直に置かれている。棒はレールの上をなめらかに動くことができる。回路全体を垂直上向きに磁束密度の大きさ B の一様な磁場が貫いている。棒の抵抗以外の電気抵抗と、回路を流れる電流の作る磁場は無視できるとする。

 

図 1

 まず、図1の回路について考える。図1の回路には起電力 E の電池とスイッチが接続されており、右側に延びた導体レールの上に、レール間の抵抗 R をもつ棒が電池から十分に離れた位置に1本置かれている。棒が静止している状態でスイッチを入れた。

(問1)スイッチを入れたときに棒にはたらく力の大きさと向きを答えなさい。

(問2)スイッチを入れた後、棒は動き出した。棒の速さが v になった瞬間に棒に流れる電流の大きさを求めなさい。

 

図 2

 つぎに、図2の回路について考える。図2の回路には導体レールの上にレール間の抵抗 R をもつ質量 m の棒LaとLbが離れて置かれている。回路の右端には絶縁体の板がしっかりと固定されている。2本の棒がともに静止している状態から、棒Laに右向きの初速度 v0 を与えた。

(問3)棒が板に衝突する前のある時刻において、棒Laの速さが va 、 棒Lbの速さが vb であった。そのときに2本の棒にはたらく力の大きさと向きをそれぞれ答えなさい。

(問4)棒が板に衝突する前に2本の棒は同じ速度になった。棒Laに初速度 v0 を与えてから2本の棒の速度が等しくなるまでに回路で消費されたエネルギーを求めなさい。

(問5)その後、棒Laが板に弾性衝突をした。衝突をした後の棒Laと棒Lbの運動を簡潔に答えなさい。ただし、棒Laと棒Lbが接触することはないものとする。

#神戸大14

(問1)
まず、回路に流れる電流の大きさを求めます。I1 と置きます。そうしますと、オームの法則より、

  I1 = \(\large{\frac{E}{R}}\)

電池の向きからしますとこの電流は紙面向こう向きであり、

フレミングの左手の法則を適用しますと力の向きは 右向き で、

電流が磁場から受ける力の大きさ(F = IBlsinθ)を F1 と置きますと、

    F1 = I1Bd = \(\large{\frac{EBd}{R}}\)

 

 

(問2)
導線が磁場の中を横切れば誘導起電力が生じます。電池に繋がれていてもいなくてもです。この誘導起電力の大きさ(V = vBl)を V2 と置きますと、

    V2 = vBd

であり、その向きは紙面こちら向きです。

求める電流を I2 と置いて左図のような左回りのループの電位を考えますと、

ア→イ では電池によって電圧が上げられ + E
ウ→エ では電流が紙面向こう向きに流れ抵抗によって電位が降下し - RI2 これは間違いやすいです。『キルヒホッフの法則』項の『経路その1』の説明をよくお読みください。
かつ、 誘導起電力が紙面こちら向きなので左回りで考えたときには - vBd となります。

よって、キルヒホッフの第2法則の式は

    + E - RI2 - vBd = 0

 ∴  RI2 = E - vBd

 ∴  I2 = \(\large{\frac{E-vBd}{R}}\)

 

スイッチを入れた直後の問1の電流に比べて小さくなってます。v で走り出すと誘導起電力が発生し、邪魔され、電流が小さくなります。

 

 

(問3)
今度は回路に電池が繋がっていません。2つの棒が動いたのは、まず、棒Laが動かされ、それによって電磁誘導が起こり、誘導起電力が発生し、電流が流れ、棒Lbにも流れ、磁場の中の電流は力を受けるので棒Lbも動いた、ということです。(このとき棒Lbにも電磁誘導が起こります。棒Laと棒Lb電池のような役目をします。)

細かく見ていきますと、

始め、棒Laは右に動かされ(このときの速さは v0)、電磁誘導が起こり、

上向きの磁場が増えるから、レンツの法則により下向きの磁場を増やすような向きに誘導起電力が発生し、電流が流れ(このときの電流の大きさを I3 と置きます)、

磁場の中の電流は電磁力を受けますが、その向きはフレミングの左手の法則により左向きであり、棒Laは減速します。このときの速さが va ということです。

棒Laに流れた電流 I3 は棒Lbにも流れ、

フレミングの左手の法則により右向きに力を受け動き出します。このときの速さが vb ということです。

磁場の中で導線が動くので電磁誘導が起こり誘導起電力が発生しますが、

その向きは、棒Lbは上向きの磁場が減るように動きますから、レンツの法則により上向きの磁場を増やすような向きです。紙面こちら向きです。電流は紙面向こう向きですから、電流を邪魔するような向きに誘導起電力が発生するということです。 棒Laの誘導起電力のみによって発生した電流を I3 と置くようなことを上で書きましたが、
本当は棒Lbの誘導起電力による妨害も含めた電流の大きさが I3 です。

ここで、左図のような右回りのループの電位を考えてみますと、

カ→キ では、
棒Lava で動くことによって誘導起電力が発生し + vaBd 、

I3 の電流が紙面こちら向きに流れるので抵抗によって電位が降下し - RI3

ク→ケ では、
棒Lbvb で動くことによって紙面こちら向きに誘導起電力が発生し - vbBd

I3 の電流が紙面向こう向きに流れるので抵抗によって電位が降下し - RI3

よって、キルヒホッフの第2法則の式は

    + vaBd - RI3 - vbBd - RI3 = 0

    + vaBd - vbBd - 2RI3 = 0

 ∴  2RI3 = vaBd - vbBd

 ∴  I3 = \(\large{\frac{(v_a-v_b)Bd}{2R}}\)

電流の大きさがわかったので磁場から受ける力の大きさF = IBlsinθ)が求められ、

棒Laにはたらく力を Fa としますと、

    Fa = I3Bd = \(\large{\frac{(v_a-v_b)B^2d^2}{2R}}\)

    向きは(上で説明したように) 左向き

棒Lbにはたらく力を Fb としますと、

    Fb = I3Bd = \(\large{\frac{(v_a-v_b)B^2d^2}{2R}}\)

    向きは(上で説明したように) 右向き

 

力の大きさは同じで向きが逆です。棒Laも棒Lbも右に進んで行きますが、棒Laは減速し、棒Lbは加速していきます。

 

 

(問4)
実は、速度が等しくなったときのその速度の大きさは突き止めることができます。これは知らないとなかなか気が付かないことですが、内力のみがはたらくときは、運動量保存の法則が成り立つのです。問3で調べたように2つの棒にはたらく力は向きが逆で大きさが同じです。これは内力とみなせます。外力がはたらいておらず内力のみがはたらいているときは運動量が保存します。

等しくなったときの速度を v3 と置きますと、

(初速を与えた瞬間) 棒Laの運動量:mv0
棒Lbの運動量:m⋅0
 
(等しくなった瞬間) 棒Laの運動量:mv3
棒Laの運動量:mv3

運動量保存の法則より、
    mv0 + m⋅0 = mv3 + mv3

 ∴  v0 = 2v3

 ∴  v3 = \(\large{\frac{1}{2}}\)v0

次に運動エネルギーについて考えてみますと、

(初速を与えた瞬間) 棒Laの運動エネルギー:\(\large{\frac{1}{2}}\)mv02
棒Lbの運動エネルギー:\(\large{\frac{1}{2}}\)m⋅02
 
(等しくなった瞬間) 棒Laの運動エネルギー:\(\large{\frac{1}{2}}\)mv32(=\(\large{\frac{1}{2}}\)m\(\large{\frac{1}{4}}\)v02
棒Laの運動エネルギー:\(\large{\frac{1}{2}}\)mv32(=\(\large{\frac{1}{2}}\)m\(\large{\frac{1}{4}}\)v02

(初速を与えた瞬間)と(等しくなった瞬間)の運動エネルギーを比較してみますと、

    \((\)\(\large{\frac{1}{2}}\)mv02 + \(\large{\frac{1}{2}}\)m⋅02\()\) - \((\)\(\large{\frac{1}{2}}\)m\(\large{\frac{1}{4}}\)v02 + \(\large{\frac{1}{2}}\)m\(\large{\frac{1}{4}}\)v02\()\)

    = \(\large{\frac{1}{2}}\)mv02 - m\(\large{\frac{1}{4}}\)v02

    = \(\large{\frac{1}{4}}\)mv02

これだけの運動エネルギーが減っているわけですが、これがまさに回路で消費されたエネルギーです。回路が発熱したわけです。ジュール熱です。

答え  \(\large{\frac{1}{4}}\)mv02

 

この話は『運動量保存と力学的エネルギー』項の『片方が静止していて、e=0』に似ています。あと、『渦電流』にも似ています。

 

 

(問5)
2本の棒の速度が同じになる問4のような状態になると、電流が流れなくなります。

誘導起電力の大きさが同じになって打ち消し合うからです。 磁場の中を動く導体棒は電池』や

磁場にすっぽり覆われた中で角度を変えずに動かしても誘導起電力は発生しない』で

説明したのと同じ状態です。

電流が流れないので棒は力を受けません(F = IBdI が 0 )。力を受けないので2本の棒は等速直線運動をします。問4の状態以降、棒は等速直線運動をするのです。

そして、棒Laと板との衝突は弾性衝突ですから、向きを変えてからも速度の大きさは変わりません。

そして、向きが変わったので今度は誘導起電力が打ち消し合わず電流が発生します。

電流の大きさは同じなので受ける力の大きさも同じです。

2つの棒は質量が同じですから受ける力が同じなら加速度も同じです。つまり、

答え  棒Laと棒Lbは向かい合う方向に同じ大きさの加速度で減速していき、同時に静止する。

 

エネルギーに着目しますと、問3で \(\large{\frac{1}{2}}\)mv02 のエネルギーが与えられ、問4で \(\large{\frac{1}{4}}\)mv02 のエネルギーが消費され、問5で残りの \(\large{\frac{1}{4}}\)mv02 が消費されるということになります。