渦電流

渦電流

磁場が変化すると導体内に電流が発生し、その電流によって磁場が発生する

導体というものは無数の自由電子を含んだ物質(金属など)のことですが、

この導体の近くで磁石を動かす(磁場が変化する)と、
電磁誘導により、導体内の自由電子が動き(つまり電流が発生し)、
この電流(渦電流うずでんりゅう です。
かでんりゅう 過電流 ではありません。
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)が新たな磁場をつくり
この新たな磁場がもともとの磁場と反発し合います。

レンツの法則です。

プラスチック、木、陶器などの不導体は、自由電子を含まないのでこの現象は起こりません。

近づく金属板と磁石

金属板と磁石が近づく場合の自由電子の動きを考えてみます。

左図のような地点にいる自由電子の相対的な移動方向はオレンジ矢印のような方向です。

相対的な電流の向きは自由電子の向きとはです。

磁場が増える方向は青矢印のような方向です。

これはちょっと分かりにくいかもしれませんが、

磁石が離れているときは、この自由電子に掛かる磁場は下向きで、磁石が近くにいるときは、この自由電子に掛かる磁場は右向きです。

フレミングの左手の法則を適用しますと、力の方向は緑矢印のような方向であり、これが自由電子が動く向きであり、

電流はその反対の向きに流れます。

自由電子は金属板の外に飛び出すことはありませんので、電流は必ず金属板内の範囲で流れます。

もうちょっと右寄りの左図のような地点でも電流は同じ向きに流れます。

左図のような地点では、

自由電子の相対的移動方向は上向きで、相対的な電流の向きはその反対で、磁場が増える方向は紙面こちら向きで、フレミングの左手の法則を適用すると、自由電子の動く向きは左向きで、電流はその反対の右向きです。

左図のような地点では、電流の方向は紙面こちら向きになります。

結局、電流は金属板の中を渦を巻くように流れます。

この電流がつくる磁場は、右ねじの法則を適用しますと、上向きとなり、もともとの磁石の磁場と反発し合います。レンツの法則です。

磁石の動かす方向を反対にしたり、磁石のN極とS極を入れ替えたりすれば、磁場の向きや電流の向きは逆になりますが、もともとの磁場と新しい磁場が反発し合うことに変わりありません。


ややこしいが…

渦電流において電流の方向や磁場の方向を求めるのはややこしくて難しいですが、要は、もともとの磁場を邪魔する方向に新たな磁場が発生する、と覚えておけば間違わないです。

金属板の電気抵抗が小さいほど磁石を動かすときの抵抗力が大きい

渦電流は金属板の抵抗率が小さいほど大きくなります。また金属板の厚さが厚いほど大きくなります。抵抗率が小さくて、厚さが厚いということは自由電子がたくさんあるということです。オームの法則の式 I = \(\large{\frac{V}{R}}\) において R が小さいほど I が大きくなるということです。電流が大きければ新たに発生する磁場も強くなります。もともとの磁場と新たな磁場との反発力が大きくなります。

導体の近くで磁石を動かすとき、電気をよく通す導体ほど、磁石は動かしにくくなります。

垂直な磁石を金属板に平行に動かす

次に、金属板に垂直に立てた磁石を金属板と平行な方向に動かす場合を考えてみます。

左図のような地点にいる自由電子の相対的な移動方向はオレンジ矢印のような方向です。

相対的な電流の向きはその反対です。

磁場が増える方向は青矢印のような方向です。

しかしこれでは、電流の方向と磁場の方向が揃ってしまいます。ほとんど電磁力が発生しません。これはローレンツ力の式 f = evBsinθ において θ が小さく(つまり sinθ が小さく) f が小さくなるということです。磁石から遠く離れた地点では自由電子に力がほとんどはたらかないのです。

左図のように近くにいる自由電子の場合は、

相対的な移動方向はオレンジ矢印のような方向で、その反対が相対的な電流の方向で、

磁場が増える方向は青矢印の方向で、フレミングの左手の法則を適用すると、自由電子が受ける力の方向は緑矢印のような方向で、発生する電流の方向は赤矢印の方向です。

結局、磁石の真下にだけ電流が発生し、

この電流が周りにさらなる電流をつくります。電荷が隣の電荷を追いやり、それが流れになるということです。

これは、紙面向こう向きの自由電子が周りの自由電子を押す、という風に考えてもいいです。

左図のグレーで示したエリアは、自由電子が足りなくなって周りから吸い寄せる、などと考えることもできます。

この新たな電流が新たな磁場をつくります。

この磁場はもともとの磁場を邪魔します。磁石の動きを妨害するのです。レンツの法則です。

磁石の行く手には同じN極が、後ろ手にはS極ができます。

ただし、
磁石を金属板に平行に動かす場合、金属板が小さかったり、磁石が遠かったりすると、渦電流が発生しなくなってしまいます。左図の場合、自由電子は紙面向こう側に溜まり、正電荷が紙面こちら側に溜まり、渦ができない状態になってしまいます。

この状態は、『電磁誘導とローレンツ力』項の導体棒のような状態です。

磁石と金属板はできるだけ近づけた方が、渦電流がはっきり現れ、磁石の動きを妨げる力もはっきり感じ取れます。


実生活での応用

ここまで説明してきた原理は、電車のブレーキに応用されています。

IH調理器もこの原理を応用してます。下から磁場を加えて金属製の鍋に電流を発生させ、ジュール熱で調理します。重さの軽い鍋だと浮き上がってしまうことがあるそうです。あと、土鍋やガラス製鍋では自由電子が無いのでジュール熱が発生せず、調理はできません。

金属板の斜面の上で磁石を滑らせる

斜めに設置したなめらかな金属板の上に磁石を置くと、重力によって磁石は徐々に下方へ加速し、速くなるにつれ渦電流が強くなり、そして磁石の動きを妨害する磁場が強くなり、やがて磁石の加速は止み、等速(終端速度)になります。


金属管の中で磁石を落下させる

金属管の中で磁石を落下させても同じようなことが起こります。重力によって加速していった磁石はやがて等速になります。

N極を下に向けて落下させたとしますと、金属管の自由電子の相対的移動方向はオレンジ矢印の方向で、相対的電流はその反対の向きで、磁場は外側向きで、フレミングの左手の法則を当てはめると電磁力は緑矢印の方向であり、この方向に自由電子が移動し、電流はその逆だから太い赤矢印の方向に流れます。

等速になったときは、下向きの mg の力と上向きの磁力がつり合っています。